SS クリスマスイブ③

 12月24日のクリスマスマーケット会場はやはり人が多い。俺と市村亜衣ははぐれないように手をつないで店を見て回る。


「どれもかわいいなあ」


 亜衣が今見ているのはアクセサリだ。


「これとか良くないか?」


 俺は星の形のネックレスを手に取った。


「別に買わなくていいからね」


「なんで?」


「だから言ったでしょ。クリスマスのプレゼントはいらないから選手権見に来てって」


 そうだった。俺は選手権の試合を兵庫県に見に行くと約束している。でも、当然それにはお金がかかる。それを心配して亜衣はずっとプレゼントはいらないと言ってくれていた。


「……だったら、選手権が終わったら何かプレゼントする」


「うん。結果に応じてグレードアップね」


「わかった」


 亜衣はそういうご褒美で気合いを入れるタイプだ。いいご褒美をもらうためにいい結果を出す。いつもそうしてきた。しかし、もし全国で優勝とかしたら何をプレゼントしたらいいんだ。難しいな。


「ちょっと寒くなってきたね」


 亜衣が言う。


「温かいものでも飲むか?」


「うん」


「これはおごらせてくれ。プレゼントじゃ無いから良いだろ」


「しょうがないなあ」


 俺はホットチョコレートを2つ持って、亜衣が待つ席に行こうとする。すると、亜衣に話しかけている男女が居た。亜衣も笑顔で会話している。誰だろう……近づくとそこにはよく見知った顔と知らない顔が居た。


「あ、お兄ちゃん」


「優子、お前も来てたのか」


 妹の優子だ。だが、その横には知らない男子が居る。


「で、こいつは誰だ?」


「こいつって……クラスメイトの神園君だよ」


「はじめましてお兄さん。優子さんのクラスメイトの神園泰です」


「よろしく……まさか彼氏か?」


「やだなあ、付き合ってないって!」


 そう言って優子は俺の腕をバンバン叩く。こいつ、サッカー部で鍛えてるから結構痛い。


「なんだ、友達かよ。友達とこんな場所に二人で来てるのか?」


「いいでしょ。お兄ちゃんだって友達の頃の市村先輩を家に連れ込んでたくせに」


「な!! あのときはお前も居ただろ」


「でも、堤防でも毎日会ってたんでしょ。友達なのに夜に二人で。なにしてたのかな?」


「う、うるさい! まったく……」


 友達なのにって言ってしまったのはやぶ蛇だったか。


「で、こいつもサッカー部か?」


「ううん、違うよ」


「なんだ、違うのか」


 サッカー馬鹿の妹がサッカー部じゃない男子と親しくしているとは思わなかったな。


「サッカー部じゃ無いけどロアッソ熊本のジュニアユースなんだって」


 亜衣が教えてくれる。


「ジュニアユース?」


「要するにプロの卵ってわけ。ユースに上がればプロの試合にも出られるかもしれないんだから」


 優子が自慢する。そんなすごいやつなのか。細くて背も俺と変わらないぐらいなのに。


「いやあ、俺なんてまだまだです。聞きましたよ、市村先輩って選手権に出るようなチームのエースなんですよね」


「え? うん、そうだけど」


 優子が神園に答える。


「すごいなあ、全国大会。でも、そんな風に見えないですよね。普通のイケてる女子高生って感じです」


「イケてるかな……」


 亜衣が照れる。


「ちょっと! 市村先輩はお兄ちゃんの彼女なんだからね!」


「なんだよ、正直な感想言っただけだろ」


 まあ、自分の彼女をイケてるって言われて悪い気はしないけどな。


「もう……会わせるんじゃ無かった。じゃあ、私たちは行くから」


「おう、じゃあな」


 優子達は去って行った。


「……まだ友達かぁ。それでクリスマスイブにこういうところ来るんだなあ」


 亜衣が言う。


「俺たちだって友達なのにいろいろしただろ」


「私たちはただ堤防で会ってただけでしょ。二人でデートとかはロアッソの試合見に行ったぐらいだし」


 亜衣が言う。


「堤防だってデートみたいなもんだろ。まだ友達なのに俺の肩にもたれかかって『パワー注入』とか言ってたのは誰かな?」


「ちょ、ちょっと!」


 亜衣の顔が赤くなる。


「……私も勇気出してたんだからね」


「そうなのか?」


「うん……秀明はどう思ってたの?」


「……マジでやばかった」


「アハハ、やっぱりそうか。あこがれの『市村亜衣』だもんね」


「まあ、そうだけど。でも、今は俺の市村亜衣だ」


「うん、そうだよ」


 そう言って俺を見つめてくる。う……可愛い。


「秀明、でもさすがにもう帰らないと」


「そうだな」


 選手権前の大事な体だ。今日はイブだから特別にこんなところに来たが長居はできない。俺は亜衣と一緒に自転車に乗り、亜衣の家に向かった。



---------

(④へ続く)



※連載中「アリスとたっくん。ときどき黒猫 ~公園で偶然出会った女子に猫のなで方を教えたら~」

https://kakuyomu.jp/works/16818093087542087803


※連載中「 三つ編み眼鏡の文学少女好きな俺の前に理想の女子が現れた! と思ったけどなんか違う」

https://kakuyomu.jp/works/16818093090433111285



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る