第52話 デート③
俺はすぐ近くの大型電気店に行くことにし、歩き出した。
「電気店かあ。しばらく行ってないなあ」
「だろ。きっと部員は居ないよ」
「そうだね。そこなら安心か。でも、そこまでが心配なんだけど」
電気店まではアーケードを少し歩く。
「まあ、そうだな。でも、人が多いし、まぎれていくしか……」
と少し歩いたところだった。
「え!? 亜衣!?」
そこに町田怜香が居た。
「うわ!」
市村が叫ぶ。すぐに町田が近づいてきた。
「最悪……」
「服可愛い! これどうしたの? イメチェン?」
可愛い服を見て町田はテンション高そうだ。
「……買ってもらった」
市村が恥ずかしそうに言う。
「熊谷君のチョイスか。いいセンスだね! 可愛いよ、亜衣」
「恥ずかしいよ……」
「そんなことないって。写真撮らせて!」
「絶対ダメ!」
「えー、彼氏には撮らせたんでしょ」
「撮らせてないから」
そういえば写真を撮るという手があったか。考えつかなかった。
「そうなんだ。じゃあ、あきらめるか。熊谷君、あとで写真撮ったら送ってね」
「絶対送っちゃダメだよ」
市村が俺に言う。
「送らないから後で撮らせてくれ」
俺は言った。
「はあ。仕方ないなあ」
「よし! 熊谷君、頼んだね」
町田が喜んでいる。
「送っちゃダメだよ!」
市村は俺をにらんだ。
「わかってるよ」
「あー、でもせっかくのデートだよね。邪魔しちゃ悪いから、私はこれで!」
町田はそう言って去って行った。
「はぁ。すぐ見つかるなんてツイてない」
「だな。早く電気店に行こう」
電気店に着くと俺たちはすぐにパソコンのある4階に上がった。
「こういうとこ久しぶりに来た」
市村が言う。
「俺は結構来てるけどな」
そう言って、いろいろと見る。
「このタブレット、小さくてかわいいね」
「それはタブレットじゃなくてディスプレイ付きのスマートスピーカーだよ。声でいろいろ操作でできるんだ」
「へー、Siriみたいな?」
「そうそう。それにこの機器を組み合わせれば家電も操作できる」
俺はそう言って隣にあるスマートリモコンを指さした。
「そうなんだ、なんかすごいね」
「ん? 新しい機器が出てるな」
俺は夢中になってそれを見始めた。
「ふふ、秀明、楽しそう」
「そうか?」
「うん。スポーツ店とは全然違うね」
「まあ、そりゃあね」
そう言っていろいろな機器を見た。十分見たところで市村が少し手持ち無沙汰なことに気がつく。
「あ、ごめん。亜衣にはつまらなかったよね」
「ううん、秀明の楽しそうな顔見ているだけで楽しかったよ」
「そ、そうか。とりあえず、出るか」
「そうだね」
俺たちは電気店の外に出た。だが、よく考えると市村の服を見られたくないんだからここに来たんだった。アーケードに戻るとすぐに知り合いに見つかってしまった。
「あ、市村先輩! 熊谷先輩!」
あれは関だ。隣には彼女の森千尋も居た。2人は近づいてくる。
「熊谷先輩、聞きましたよ。ようやく付き合えたんですね」
「まあな」
「今日はデートですか?」
「そうだよ」
そんな話をしていると森千尋が市村をじろじろと見ていることに気がつく。やっぱり普段と違う服だよな。
「千尋、あんまり見ないでよ。恥ずかしいし」
そういったとき、いつもクールな森さんが「ぷっ」と笑った。
「ちょっと! 今笑ったでしょ!」
「すみません……いつもと違いすぎてつい……」
森さんが言う。初めて森さんの声を聞いたような気がする。
「もう、だから嫌だって言ったのよ」
そう言って市村は俺をにらんだ。
「でも、可愛いだろ?」
俺は関に言った。
「はい! すごく似合ってます。可愛いです!」
関が言った。
「そ、そうかな」
「そうですよ。千尋にもこういう服着せたいけど――」
「絶対嫌」
森さんが関に言う。
「こう言うんですよね。先輩がうらやましいです」
関が言った。
「うーん、秀明が喜んでくれるならいいか」
市村も納得してくれたようだ。
「みんなに言わないでよ」
市村が森さんに言う。
「わかりました。秘密にします」
「それでよし。秀明、もう行こう」
「そうだな。じゃあ、またな関! 森さん!」
俺たちはそのまま家に帰ることにした。
市村の写真を撮り忘れたことに帰ってから気がついた。
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