第162話 あとがき(1)

「おい、引っ張るな、瀬名! 引っ張るなよ、瀬名! 痛いだろう瀬名! 俺に用があるって言っているけれど、瀬名! お前、ここで話じゃ、だめなのか、瀬名?」


 まあ、俺は酒に酔い可愛い妻! 愛しているぞ、妻! の名を何度も呼び、尋ねる俺なのだが……。


 実はまだ続いている俺の祝い……。元服のいみなの儀式……。


 そう、俺の知る歴史通りならば竹千代からへと襲名されるはずなのだが。

 この世界の俺はみんなも知っている通りだ! 松平元信さま徳川家康さまではなく、俺が今川氏真瀬名と結婚したことで今川家の婿養子……。【婿殿】になったから、俺の名前は足利幕府の名門の家の跡継ぎ、へと襲名した!


 まあ、襲名したはいいけれど!


 俺の漆黒の髪色がよく似合う、麗しく、可愛い嫁……。今川氏真瀬名の奴が俺にどうしても話しがある!


 まあ、あるからさ、今直ぐ自分についてくるようにと、お酒に酔っている俺の二の腕を掴み、握り、引っ張り、急かすから。


「ちょ、ちょっと待てよ、瀬名! 今は俺のいみなの祝い……。烏帽子えぼしの祝いの最中だけではなく、俺と今川氏真瀬名の祝言の最中だから。主役の俺達二人が祝いの最中に二人揃って仲良く席を同時に外したらマジでやばい、やばいって! 後で俺が御方さまや奥方さまに、『元信~!』、『婿殿~!』と憤怒しながら叱られる。叱られて切腹を申しつけられたら、どうするんだよ、瀬名?」


 あの時の俺は自分の二の腕を掴み、引っ張る、嫁……。


 それも凄く怪訝な表情で俺の腕を引っ張り急かす、今川氏真瀬名へと場が、場なので小声で囁き尋ね、諫めもしたけれど。



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