第90話 あれから? (1)

「えっ、へへへ」


 今川館の木陰で……。


 俺が両腕を上げ──ワシワシと気持ち悪い笑み……。スケベそうな笑みを浮かべ、破顔で威嚇しながら、若い女中の姉ちゃんを人目に付かない場所へと追い込んでいたら。


「もう、若君は辞めてください~。いや~ん、いや~ん。いやらしい~」


 女中の姉ちゃんは可愛く自分の首を振りつつ声を出し、後退りながら将来、徳川家康変態タヌキ爺へと変貌する俺から己の純情を守護しようと試みるのだが……と、俺は言いたいところではあるのだけれど。


 まあ、和歌に勉学……。部門にしては織田信長の愛情こもった体罰……。折檻のお蔭で剣に槍と和弓……。


 そして今俺が転生した過去の日本……。中世……。応仁の乱による国内悪化……。戦国時代では超近代兵器であるマスケット銃火縄銃の扱いも難なくこなす文武両道のモテ男……。イケメンタヌキちゃんだから。女中の姉ちゃん達は俺に不埒なことをされるのを嫌がるわりには、自分の意思で人目につかない場所へとさり気なく移動……。


 そして他人の目がないとわかれば。


「いやいや、若君さま~。いや~~~、ん」と女中の姉ちゃんは首を振りつつ、自分が着衣している着物の帯から、自らの意思で外し始めるのだ。


「あれ~、あれ~」、「いや、いや」、「駄目、駄目」、「未だ若様には、お早いです」と一人で叫び、喚き……。それもできるだけ小声で叫びながら産まれたままの姿へと変わり、この徳川家康タヌキ爺を歓喜、楽しませる。まあ、楽しませてくれていたのだけれど。


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