第35話 苦労をかけた忠臣(1)
「竹千代様?」
「……ん? 何でしょうか?」
今川の親父さまや太原雪斎和尚さまとの会見──会話も無事に終わり、謁見の間から、名も知らない無名の武士の兄ちゃんに、今日から使用する自分の部屋へと案内をされていると。
俺に兄ちゃんが声をかけてきたから言葉を返した。
「竹千代様は未だ幼いのに大変に頭が切れ、先見の明もあり、智謀に優れ、まるで大陸の稀代の名軍師のような御方ですね、凄い。凄すぎますまする。将来が本当に楽しみだ」
武士の兄ちゃんは俺のことを本気か、嘘かわからないけれど両手でジェスチャーまで混ぜ、大袈裟なぐらい絶賛してくれた。
「えっ、あっ、そうでしょうか……。僕なんかまだまだですよ……。御方さまや雪斎和尚さまの足元にも及びませんから……」
そう、あの時の俺はいくら中身がアラサーのおじさんで、兄ちゃんよりも年上だとしても海千山千……。
この戦乱の世を武田信玄公や北条氏康公、織田信秀公などの強敵と何度も渡り合い、修羅場を重ねながらも、この今川家を守った知将二人には実戦経験共々、俺は足元にも及ばない。
だって未来の史実では、武田信玄公相手に俺は敗戦……。北条家と織田家とは戦を避け同盟……。
そして弱い俺! 敗北者な俺は! 大事な物であろうとも、笑いながら相手に差し出し、奪われていく未来だけが待っている……。
そう織田信長には大事な嫁と出来のよい息子を因縁をつけられ切腹と斬首……。
そして豊臣秀吉には御先祖さまや家臣達が命懸けで守ってきた岡崎の地を差し出し、左遷をする羽目になる情けない男だから、兄ちゃんがいくら褒め称えてくれようが俺は首を振ってみせた。
「まあ、確かにそうかも知れませんが、竹千代さまは未だ御若い。だから未来に可能性がありますよ。それにあの義元公が自分の次は竹千代だ! と、自身の膝を叩かれ、太鼓判を押されて、太原和尚様に任せると言われたのですから、自信を持たれても大丈夫ですよ」
「そうですかね?」
「えぇ、そうですとも。あっ、ははは」
生前に妻も無く、子供もいない俺……。でもこの世界では数年も経たないうちに、自分の妻を持て、子も持てるようになる俺なのだが。更に年月が経てば、俺自身が死にたくなるような厄災が降りかかることを思い出してしまい、肩を落とし、下を向いてしまった。
そんな俺に、武士の兄ちゃんは満身の笑みを浮かべながら。俺の首や背が痒くなるぐらい褒め称えてくれたのだ。
だから俺も満身の笑みを浮かべながら。
「そうか~! ありがとうお兄さん~! 僕は頑張ってみます~! ありがとう、ありがとう……」
俺は武士の兄ちゃんの大きな手を小さな両手を握り、振りながら、頑張るぞ! と思いつつ。俺が前向きになるように褒め称えてくれた彼に何度もお礼を告げたのだ。
「竹千代様、そんなに畏まって、私にお礼を言わないでください。私の方が困ります……。それに私は今日より竹千代様の世話係と言う項目で家臣に付く者でございます。それに私も他の岡崎衆共々、若君の帰還を心待ちにしていた者で御座います。若君……」
武士の兄ちゃんは俺に今川家の家臣……。俺の監視役ではなく岡崎衆……。徳川家康の本物の家臣だと、自分の膝をつき、一礼しながら教えてくれた。
「えっ! 嘘?」
俺は膝をつく武士の兄ちゃんの前で驚嘆した。
「えぇ、本当ですとも若君……。今日から私も酒井忠次殿や鳥居元忠殿同様、御 二人と共に若君の護衛件、今川義元公と太原雪斎様との繋役……。そして三人に勉学を教える予定でしたが……。なんか若君には不要でしたな。あっ、ははは」
あの時俺は武士の兄ちゃんの畏まった挨拶を聞いて、驚き、桃○木、山椒○木となり、眼が飛び出そうな状態へと陥る。
だって武士の兄ちゃんは俺に、これが武士の心得、気構え、あり方なのだ! を教えてくれる
だからこの後俺の口から自然とでる言葉は、貴方は一体誰なのですか? となる訳だから。俺は武士の兄ちゃんへと尋ねるために自分の口を開いた気がする。
◇◇◇
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俺流の徳川家康はこうだ! 未来を知る俺が尽くすならば、同じ悪役令嬢様ならば織田の姫様よりも今川の姫様の方に使える事にした! かず斉入道 @kyukon
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