第182話 あとがき(21)

 あの時の俺は於大の方お袋さまのことを思案していたから、にへらと笑いながら泰長に告げたと思う?


「殿、何を考えているのですか?」


 瀬名に怪訝表情で尋ねられたけれど。


「うぅん、何でもないよ。瀬名……。少し考えごとをしていただけで、本当にたいしたことではないのだ」


 と、俺は瀬名へと告げるのだが、アイツも実際は織田信長と変わらないぐらい賢い女だから。


「殿~、本当に何も考えていないのですか~? わらわにはうそは通用しませんからね~」


 俺と幼馴染にもなる今川氏真嫁さんだから感が鋭く。俺の嘘をあっさりと見抜くので。


「俺を産んでくれた水野のお袋さまのことだよ……。泰長を見ていたらさ。俺のお袋さまはまだ里のにいるのかな? それとも歴史通り他家へと嫁いだのかな……? まあ、それならば幸せに暮らしているといいな? みたいな感じのことを色々と考えていたんだよ。あっ、はははははは」


 未来人からの転生した俺だから好きでもない。恋愛感情もない相手の所へと家の事情と言う奴だけで、夫をコロコロ変え結婚をさせられたお袋さまのことを不憫と言うか?


 息子の俺は何とも言えない複雑な感情を笑い誤魔化しながら瀬名へと告げた。


「ああ、なるほど……」


 瀬名は賢いし、アイツも未来からの転生者だから、これ以上のことは何も尋ねてはこない。


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