第32話 まだ終わっていないでごじゃる(7)

「えっ、えぇ~と、僕が武田晴信公ですか?」


 徳川家康の転生者である俺……。未来を知っている俺はゴクリと生唾を飲み、冷や汗を額にかきながら、今川義元今川の親父さまへと言葉を返した記憶がある。


 でッ、その後は、どうしよう? どうしたらいい? 俺が織田信長や明智光秀が考えた策であの武田信玄甲斐の虎を撃退することは可能なのか? と思案をしながら、今川の親父さまへとどう説明をしようか? と言葉を選んだと思う。


 だって俺は歴史の中で東海道を悠々と進軍する風林火山に対して若気の至りで猪突猛進──! 優秀な岡崎衆を率いて鋒矢の陣で、甲府軍艦に一矢報いてやろうと、てぐすねひくで待ち構える武田信玄甲斐の虎の急な反転からの魚鱗の陣にて粉砕され命からがら、糞尿まで漏らしながら逃げ──。今後の自分への諫めとして、情けない様子を絵にまで描き残すほどの敗戦を経験しているのに。俺は武田信玄に勝てるのか?


 あのも織田信長の相手が、諏訪氏の当主になるはずだった武田勝頼だから、最後まで重臣達の信頼を得ることができずにいた奴から勝利できたのだと分析する未来人達も多々居るのだ。


 そう、もしも織田信長が長篠で対戦した相手が武田勝頼ではなく武田信玄甲斐の虎相手ならば、甲斐の朱色の騎馬隊達は、あんな銃の的になるような無謀な突撃を繰り返すことなかったのではないか? と唱える未来人も多いいことは俺自身も知っているから。

 俺の少し未来のライバルでもある武田勝頼相手ならば、自分も勝利を得ることも可能だけれど。

 武田信玄甲斐の虎相手だと流石に俺だと身が重い。


 だから俺は自信のない顔を上げ──今川の親父さまの顔を見れば、爺は真剣な眼差しで俺を見定めているのがわかるから、どうしよう? できるかな? あっ、ははは。俺自信がないや……と思いつつ、太原雪斎和尚……。俺の今後の人生の師となる先生の方を見れば爺はニコニコと穏やかな顔……。育てがいのある小坊主がきたとでも言いたい。この俺を温かく包んでくれるような微笑みを浮かべながら見詰めてくるから。


 あの時の俺は雪斎和尚からちゃんと色々なことを真剣に学び、三英傑の中で本当に気性が荒く、気が短いのは織田信長公ではなく、俺、徳川家康だったのではないか? と未来人達にも言われている、この気性難を改善して、相手の出方をゆるりと持ち、こちらの土俵で戦う……。


 そう豊臣秀吉さる相手の小牧・長久手の戦いや天下分け目の関ヶ原のような落ち着いた戦ができれば、あの武田信玄甲斐の虎相手でも勝利することが可能かもしれない。


 それに今川の親父さまは、自分の姪である瀬名を養女として俺へと嫁にだす訳だから。只の男だと心配で仕方ないと思うのが親心だと俺は思うから。


「はい、御方さま……。僕が先ほど説明をした武器を大量に用意をしていただけるならば、武田菱の旗印を必ずや粉砕してみせます。お任せください。御方さま……」


 あの時の俺は今川の親父さま……。この世界の義父父親へと、今川家のことはお任せあれと力強く告げることができたと思う?


 だからだろうか? 今川の親父さまはホッとした顔と安堵した様子を俺に見せたから。

 俺は今川の親父さまはどうしたのだろうか? と思った気がするのだが。これ以上武田信玄公の話を続けられるのは御免葬りたいので。


「御方さま」とガキの癖に調子よく、重臣にでもなったような気で、爺へと声をかけた気がする?




 ◇◇◇



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