第56話 今川家での生活が始まる(7)

「は~い、わかったよ。鳥居の兄ちゃん~」


 あの時の俺は自身の両手を後頭部へと当て──自分の身体を後ろの若干逸らしつつ、気だるげ……。悪態をつきながら言葉を返して。


「何で氏真姫さまは、よゐこの俺に対して些細なことでも直ぐにムキなって殴る、蹴るの、虐め。折檻をしてくるのかな~? 俺はマジで、今川家のみんなが認める若武者に育ちつつあるのにさ~。絶対に姫さまは可笑しい~、変わっている~」


 あの時の俺はアイツ! 今川氏真悪役令嬢さまは少し変と言うか? かなり変わっていると不満を漏らした。


 だって今川氏真アイツの取り巻き……。まあ、クソガキの井伊直虎はまだ異性に対して恋愛感情がない年頃だったから。


『お姉さま!』、『お姉さま~!』と悪役令嬢さま親衛隊長をしている直虎以外の今川家の重臣達の令嬢さま達……。


 そう、あの朝比奈や岡部……。安部に天野……。その他の一門衆や重臣達の令嬢さま達でさえ、氏真の目がなければ俺のことを『竹千代さま』と様扱いで呼んでくれるし、恋文だってくれたりもした。

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