74話 電車
黒野だ。いよいよもって三泊四日の修学旅行。別に胸も高鳴らないし、ワクワクもしないが周りの奴らはウキウキな気分である。
新幹線を使い長野駅まで直行、そしてそこからバスでスキー場まで向かうらしい。
今は新幹線の車中、隣の席に居るのは腐れ縁の真知子である。
「なぁ豆子。長野の男、京都の男、どっちの方が良いかな?」
「何の話だ?」
唐突に真知子が変なことを言い出すから困りものである。ハッキリ言って意味不明。
「ほら、長野の美白系男子も捨てがたいが、京言葉を操るはんなり系男子も捨てがたいじゃないか、私はどっちの男と付き合えば良い?」
まだ会っても無いのに胸を膨らませ過ぎだろコイツ。
「長野も京都も遠距離になるから、付き合うとしても長続きしないだろ」
「チッチチ、分かってないな豆子は。毎日顔を合わせないで、たまに会うぐらいが男と女は丁度良いんだよ。普段単身赴任している旦那さんが、たまに家族に会いに行くと大事にされる法則な」
「えらい具体的な話だな」
真知子もたまには一理ある話をする。まぁ基本的には考えが浅はかなので、たいした意味は無いのだが。
「豆子だって良い人見つかるかもしれないよ」
「私は興味ないから良い」
恋愛には本当にこれっぽっちも興味はない。ゆえに私に恋愛相談を持ち掛けてくる奴らの気が知れないのである。
「またそんなこと言って、私の結婚式のスピーチをお前にしてもらおうと思ってるのに結婚してないと恥ずかしいことになるかもだぞ」
「自分が結婚できると思ってるところがおめでたいな」
「……えっ?どういう意味」
真知子は困惑した顔で私を見てきたが無視してやった。なんとなくだが真知子は30過ぎても結婚出来てなさそうなのである。だがこのことを真知子に伝えるとギャーギャーうるさそうなので私はそっぽを向いた。
「……う、ううん」
どうやら、いつの間にか寝てしまっていたらしい。目を開けるとまだ新幹線の中だ。なんて長い道のりなんだ。コーヒーを飲めないなんて苦行に近い。
「黒野さん、ようやく起きたのね」
黒野さん?隣から真知子の声じゃない女の声が聞こえたので、そちらの方を向くと、ヒョロガリ女子の定岡 加代子が私の隣の席に座っていた。
あれ?これは夢かな?私は変な夢をたまに見るからな。
「驚かせてしまってごめんなさい。黒野さんが寝ている間に大鳳さんと席を代わってもらったの」
そう聞いた瞬間、真知子のけたましい笑い声が遠くの方で聞こえた。いつもガハハハと笑うので分かりやすいな。
いやそんなことより、何故に定岡が私の隣の席に居るのかということである。
定岡といえば登山合宿の時に私に相談できなかったのを逆恨みし、襲い掛かって来たことが記憶に新しいが、あれは一応の解決はした筈である。
あれからあまり話していないが、一体私の何の用だろうか?
「私に何用だい?」
「アナタに報告しておきたかったの。私、修学旅行中に同じクラスの山崎君に告白しようと思って」
「ん?なんでそんなことを私に報告するんだ?」
まさかどう告白すれば良いとか聞いてくる気じゃあるまいな。そんな事を聞かれても、ストレートにただ告白しろとしか言いようがないぞ。
「警戒しなくて大丈夫よ。もうアナタを襲ったりしない。ただ本当に報告だけしておきたくて、この間は迷惑を掛けちゃったから、これは私なりのけじめなの」
「ふーん、そっか」
本人がけじめというのだから、これ以上は追及する必要は無いだろう。私に報告することが、定岡が前に進む為に必要な通過儀礼だったということかもしれない。
「山崎といえばパン屋の息子だよな。あそこのパンはコーヒーとよく合うんだ」
「うふふ♪そうね♪」
それから暫く定岡と世間話をしていたが、真知子が騒いでいたせいで席を入れ替わったのがバレて、私まで金原なんぞに怒られる羽目になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます