64話 軽蔑

 私の名前は九条くじょう 菜音なの。高校一年生です。

 今日はとある悩みを抱えて、相談の達人という黒野さんに相談しに、二年生の教室まで来ました。

 モジャモジャ頭の不健康そうな人、こんな変な人が私の相談にちゃんと聞いて、尚且つ的確なアドバイスをすることが出来るのか?と疑問が残りますが、まぁ、とりあえず相談してみることにします。


「それで?今日はどんな相談で来たの?」


「憧れている先輩が不細工な女のことが好きでムカつくんです」


 オブラートなんて包まずに私はド直球で言ってみた。まどろっこしいのは嫌いなんです。


「へぇ、まぁ、誰が誰を好きになろうなんて、本人達の勝手じゃ無いか?」


「そんな模範解答みたいなのは要らないんです。私の好きなひいらぎ さとる先輩はイケメンなのに、好きな相手の女は太ってるし、髪だってボサボサ、おおよそ褒めるところの無い人なんです。学校の花壇に自主的に水をやっているだけで、柊先輩の心を射貫くなんて納得いきません。」


「花壇に水やり……あぁ、塚本さんか、あの子凄いよな。朝の水やりを毎朝欠かしたことないもんな」


「別にそんなの凄く無いです。私から言わせれば花に水をやる時間があるなら、もっと自分磨きをしろと言いたくなるんです。自分が不細工だから綺麗なものに憧れる気持ちは分かりますが、そんなあざといことをして柊さんに好意を向けられてるのが我慢ならないんです」


「君、ズバズバ思ったこと言うなぁ」


「はい、私は綺麗ごとが大嫌いなんで」

 

 みんな、さも良いことの様に綺麗ごとを並べるけど、私から言わせて貰えば、そんなのは言い訳に過ぎない。もっと自分に正直に、許せないものは許せない、嫌いなものは嫌いだと言うのが正しいに決まってる。私は何も間違ってない。


「でもね、アンタの好きな柊君は偽善と分かっていながらも、進んで学校の清掃をしてるんだよ。自分の為にね」


「そんなことあるわけない‼柊先輩は息を吸う様に良いことが出来る素晴らしい人なんです‼偽善だなんてとんでもない‼」


 思わず声を荒げてしまいました。だって先輩のやっていることが偽善だなんて、失礼にも程があります。


「まぁ、信じないならそれでも良いけどさ。それでアンタは結局どうしたいんだよ?」


「そんなの決まってるじゃないですか。柊先輩の目を覚まさせて、あわよくば私が彼女になりたいんです」


 最終目標まで言ってしまったが、本当にそうなろうとしているのだから別に隠す必要は無い。


「自分に正直なのは良いことだと思うんだけどよ。アンタは自分の枠組みに人を当てはめ様として、真実ってヤツが見えて無いよ」


「なっ⁉」


 何を言い出すんだろうこの人?嫌いだ、この人も私嫌い。


「なんですかそれ?私の言ってることは間違ってません。外見だって付き合う判断基準でしょ?誰だってイケメンと美女と付き合いたい、それを隠して相性が大事なんて言いたくありません。反吐が出ます」


「そのアンタの考え方が柊君には当てはまらなかったんだよ。だから塚本さんのことが柊君は好きになったんじゃないかな?心の綺麗さってのは本当にあるんだよ。アンタみたいな自分の基準がすべて正しいって思ってる勘違い女には分からないだろうけどさ」


 私は頭に血が上って、目の前の女を殴りたくなった。

 だけど、殴ったら私の負け。グッと堪えて私は無言で立ちあがり、スタスタと教室の外に出た。何が相談だ、相談者をディスって悦に浸ってるだけの捻くれた女じゃないか。やっぱり相談なんてするんじゃなかった。

 私はムカムカしながら帰っていたけど、途中であることを思い出して、はぁと溜息をついた。



 黒野だよ。久しぶりにクセの強い相談者が現れたねぇ。

 頭に血が上るタイプは正直苦手だな。こっちの話なんて聞きはしないんだもの。それにしても柊君と塚本さんか、中々似合いじゃないか、こっそりと応援させて貰おう。


”ガラガラ”


 おや?また教室の戸が開いた。

 見るとそこには先程の相談者である、お団子ヘアーの九条の姿があった。

 口を尖らせて不服そうではあるものの、その右手には缶コーヒーが握られていた。


「こ、これ、一応相談には乗ってもらったので……買ってきました」


「ふっ、ありがとうな」


 可愛いところもあるじゃないか。

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