63話 短編③
黒野周辺の人物① 金原 孝則
「あー金無い」
どうも金原先生だぞ。相変わらず金が無いんだぞ。そんなことを職員室で呟くから他の先生から白い目で見られる。だが今日の昼めしすら食うことに困ってる俺にとっては、そんな白い目を気にする余裕など無いのである。ぐぅ~ぐぅ~と腹が鳴るが、無いものは無いのだ諦めろ腹。それもこれも昨日のパチンコの確変すり抜けのせいだ、700回転もハマった分際で確変に入ってからすり抜けて単発終わりとか舐めてるとしか言いようが……
「あの金原先生」
「あっ、眞鍋先生。どうかしましたか?」
「またお弁当の作りすぎちゃったんで、これどうぞ食べて下さい」
そう言って眞鍋先生は一つのお弁当箱を差し出して来た。こういうラッキーがあるから人生というギャンブルはやめられないのである。
「良いんですか?」
「はい、作りすぎちゃったんで、食べなかったら捨てるだけですから」
「なら、ありがたく頂きます。このご恩はいつか必ず返します。とりあえず弁当箱は洗って返します」
「い、いえいえ、お気になさらず」
そう言うと眞鍋先生は自分の席に帰って行った。
弁当箱を開けると、俺の好きな鮭と鶏のから揚げが入っていて、俺はニッコリ笑顔になった。ご飯の上の海苔がハート型に成っているのは意味不明だが、美味しく頂くことにしよう。
黒野の周辺人物② 大鳳 真知子
私、真知子。彼氏と別れてから私の心にはポッカリと穴が開いている様だ。
ご飯も三杯しか食べれないし、腹筋だってバキバキだ。失恋の痛みに耐えながら今日も生きてるわけさ。分かるこの気持ち?
私のもっぱらの朝のルーティーンは、幼なじみの女にマウントを取ることである。こうすることで彼氏を失った喪失感を埋めてるってわけ。頭良いよね私。
「ねぇ、豆子」
「なんだ真知子、しょうも無いこと言い来たなら帰れ」
「黒野は彼氏出来たか?」
「いねーよ、後にも先にも作る気ねーよ」
「プッ……そうだよな居ないよな」
そうそう、そうこなくては。この朝のルーティンはコイツに彼氏が居ないことを確認する為でもある。もしここで黒野に彼氏が居たら、私の自我は崩壊し、きええええええい‼と奇声を上げながら全裸でグラウンドを走ることになるだろう。
「毎朝毎朝、お前それを言ってくるけどさ。一体何の確認なんだよ?」
「まぁまぁ、黒野可愛いからさ、その内に出来るって、焦んなって」
「焦ってねぇ、作る気ないって言っただろ、耳付いてんのか?」
さて、マウントもそろそろフィニッシュ。決めるぜ。
「ちなみに私は彼氏居たことあるけどなぁああああああ‼」
ドヤ顔で決まった。この他者を見下すことによって得られる幸福感が、私を支えてくれている。
「なんかムカつくから関節技決めるわ」
「えっ、黒野さん?ちょっと……」
スピニング・トゥホールドを私に決める黒野。こうして私は朝から叫び声を上げることになったのは言うまでもない。
「ぐあああああああああああああああ‼」
黒野の周辺人物③ 坊主専門床屋マルガリータ店主 田中 玲子
私の名前は田中 玲子。商店街で坊主専門の床屋をやっている者である。
今日も行きつけの喫茶店で高校生のバイトに交渉を試みている。駄目で元々ってヤツだが言わないよりはマシだよな。
「だからさ校則を守らない奴はウチに来て坊主にするようにしてって、アンタのとこの校長に掛け合ってよ。坊主にしたらいい子が増えるよ。髪なんてあるから生意気になるわけさ。坊主こそ高校生の本来あるべき姿なワケ」
「そんなことを私に言われても困るんですよ。大体女子が坊主にするわけ無いでしょ。体罰で問題になりますよ」
ふぅ、いつも通りの正論である。正論過ぎて反論の余地が無い。だが私はこんなことで諦めたりしない。全人類坊主化計画の足掛かりとして、まずは近所の高校生を丸坊主にしなくては。
「お洒落坊主にしてあげるからさ、何なら坊主にした後に剃り込み入れてやろうか?」
「それこそ校則違反です。てかもう学校に直に言いに行ってくださいよ。私をパイプ役に使わないで下さい」
「そんなバカみたいなこと言えるわけ無いだろ」
「……なら私にも言うなよ」
全人類坊主化計画の道のりは遠く険しいようである。
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