60話 次元
黒野だ。風邪もようやく直ってコーヒー飲み放題、こんなに嬉しいことはない。
人間というものは、いつもある幸せをもっとありがたがらないといけないんだなぁと改めて考えさせられた。あと薄いコーヒー程、物悲しいものは無い。
さて、学校を休んでいたから相談の方もやっていなかったわけだが、早速今日の放課後からやっていこうと思う。病み上がりだからお手柔らかに願いたいところだが、さてさてどんな相談が来ることやら。
「初めまして、拙者は
……はぁ。読者の皆さん、今、忍者が来たかと思っている人が居るかもしれないが、それは違う。私の目の前に座って居るのは、太って汗だくの学ランの下にピンク髪の女子の萌えキャラがプリントされたTシャツを着た男である。偏見になるといけないが十中八九オタクだろう。オタクで無ければなんだのだ?
また病み上がりなのに濃くて脂っこいのが来たなぁ。
「それで相談ってのは何?」
「はい、実は拙者、現実の女子と二次元の女の子のギャップに心を痛めているんでゴザルよ」
「ギャップ?」
「はい、それというのも二次元の女の子は拙者に優しく接してくれるのに、現実の女子ときたら、拙者をまるでゴミを見る様な目で見てくるでゴザル。これでは現実で恋愛をしようとなんて全く思わないのでゴザルよ。どうにかならんでゴザルか?」
「ふむふむ、なるほど」
ここで「どうにかなるわけ無いだろうが‼」と怒鳴りつけることも出来るが、そんなことをするのは私的にはナンセンス。ここは疲れるけど冷静に対処するとしよう。
「そりゃ無理だよ。現実の女は厳しく男をチェックしてるんだから。アニメやゲームの女と違って、現実の女は自分の意思で行動している、ゆえにお前の思い通りには全くもってならないね。こればかりは仕方ない」
「そんなー、拙者は温かい家庭が持ちたいのに」
この男、そんな細やかな夢を持っていたのか?まぁ、夢を持つことは本人の自由だから良いのだけどね。よし、更にアドバイスしておくか。
「ゲームやアニメの女はファンタジーなんだよ。三次元と二次元ではそもそもジャンルが違う。鉄火丼とカルボナーラぐらい違うよ。同じ様に捉えてるからギャップに苦しむわけ。ちゃんと分けて考えないと駄目だと思うぞ。三次元の女に好かれたいなら、相手を駄目だ駄目だ言う前に身だしなみぐらいは気を付けな。私はあんまり気にしないけど、リアルな女ってのはそういうところも見てるんだから。別に好かれたくないなら、そのままのアンタで良いだろうけどさ」
私がそう言うと。暫く御宅田は黙った後、重い口を開いた。
「……黒野殿ありがとうございました。大変勉強になりもうした。拙者二次元の女の子も好きでゴザルが、三次元の女の子も好きでゴザル。よって、これから身だしなみぐらいは気を付けてみるで候」
「うんうん、頑張ってみな」
他にもいろいろ直した方が良さそうだが、あんまりいっぺんに言ってパニックになるといけないので、今は身だしなみだけで良いだろう。
「それで、黒野殿につかぬことをお伺いしますが、黒野殿はお付き合いしている殿方はいらっしゃるのですかな?」
「うん?そんなのいな……」
居ないと言いかけて寸前の所で口を閉じる私。御宅田の期待に満ちた目、荒い鼻息を見るに、私に彼氏が居なければワンチャン付き合いたいというのがヒシヒシと伝わって来る。私は彼氏なんか全く要らない女。ここは嘘は言わずに切り抜けることにしよう。
「私はコーヒーが恋人さ。それ以外はアウトオブ眼中」
私がそう言うと御宅田はガッカリした様子で、自販機まで缶コーヒーを買いに行ってくれた。まぁ私以外の女と幸せになってくれよ。
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