37話 破局

黒野だよ。

私らの高校だって体育祭がある。

まぁ、ゆえに相談も無いので何もダイジェストにもならない筈だった。

だがまさか最後の最後の全校生徒の大騎馬戦において、相談に乗ることになるとは思ってもみなかった。

私は真知子と右近ちゃん、左近ちゃんという双子の女の子が組んだ騎馬の上に乗り、騎馬戦が始まるのを憂鬱な気持ちで待っていた。

しかし騎馬の先頭の真知子の顔が私以上に憂鬱、いや最早陰鬱である。


「はぁ・・・。」


溜息をつく真知子。そういえば体育祭が始まる前から暗い表情だった。暗い表情のまま100メートルの徒競走を一位、学級対抗リレーもアンカーで走り、我々赤団の得点に貢献している。気を落ちしていても運動能力には差し支えないのだから恐ろしい女である。


「はぁ~。」


・・・先程よりも長い溜息。これはもしかして私が聞いて来るのを待っているのか?でも怠いよ、これから男女入り乱れての危険度の高い騎馬戦があるのに、こんな時まで人の相談に乗ってたまるか。


「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼」


長いしうるさい。アピールが凄い。でも私は相談に乗らない。そう決めたんだ。


「ねぇねぇ、黒野さん。真知子さんの相談に乗ってあげなよ。何だかとても悩んでるみたいよ。」


「そーよ、そーよ。」


騎馬の左の左近ちゃんが私に諭すようにそう言うと、右の右近ちゃんがそれに同調して来る。左近ちゃんは別にどうでも良いが、右近ちゃんがなんかムカつく。

一人が溜息、二人から催促され、一気に逃げ場が無くなった私は、頭を搔きながら真知子に話し掛けた。


「どうしたんだよ真知子?何かあったのか?」


ちなみに棒読みである。


「あっ、あぁ豆子居たの。」


居たのじゃねぇよ、白々しい。落ち着け私。ここでキレたらチームワークもクソも無くなる。


「あぁ居たよ。それでどうしたんだよ。」


「じ、実はな。私、彼氏と別れたんだ。」


「へぇ、そうなんだ。」


コイツは良かった。これで真知子から惚気話を聞かないで済むんだな。自然と私の顔から笑顔がこぼれる。

と、ここでまた双子が話に割り込んで来る。


「ちょっと今の酷いんじゃない?軽すぎるわよ。」


「そーよ、そーよ。」


やっぱり右近ちゃんのそーよそーよがムカつくな。次言ったらゲンコツをプレゼントフォーユーだ。


「慰めてくれよーーーー‼」


おっと真知子が泣き始めた。これは予想外だ。どうやら余程彼氏のことが好きだったようだな。早急に泣きやまさないと、そろそろ騎馬戦が始まってしまう。別にハチマキ取られて負けるのは構わないが、騎馬が動かないせいで乱戦に巻き込まれて怪我するのはごめんだ。


「悪かったよ。大丈夫、大丈夫。真知子は可愛いからすぐに次の彼氏が出来るよ。」


「本当?ケビンコスナーとかブラピみたいなイケメンと?」


「うーん、何で外人で例えたのかは分からないけど、可能性も無くは無いんじゃないか?だって真知子可愛いもん。」


嘘である。真知子が可愛いなんてこれっぽっちも思ってないし、こんな女と付き合う男が今後現れる筈が無いと私は考えている。


「えへへ♪そうかな♪」


よし、真知子ちゃんちょろい。今までのどの相談者よりもちょろい。ちょろ過ぎて欠伸が出るわ。


「ちょっと黒野さん。やっぱりアナタ相談乗るの上手ね。」


「そーね、そーね。」


双子もこの通り、バージョン違いだからゲンコツは許してやろう。


「元気がムクムク沸いて来たぜ。ここは天下取りに行くぞ‼」


「えっ?」


ちょっとテンション上げ過ぎじゃない?天下取りに行く必要は無いと思う。


「分かった天下取りに行こう‼」


「いーね♪いーね♪」


いーね♪いーね♪じゃない。アンタら動くだけだから良いかもしれないけど、ハチマキ取るの私なんだからな。


「豆子‼手加減したら分かるんだからな‼本気でやれよ‼あとで缶コーヒー三本ぐらい奢ってやるから‼」


えーっ、そんなんで私のやる気が出るとでも?そんな軽い女じゃ・・・


「さて、天下取り行こうか。」


私はハチマキをきゅっと締め直し、戦場に赴くのであった。

この後、私達の騎馬は10騎のハチマキを取り、味方の総大将を助ける為に敵を足止めし、善戦の末やられてしまったのだが、MVP騎馬として表彰されることになった。

表彰された時に思ったね。やり過ぎたって。

あぁ、体育祭は我らが赤団が勝ちました。

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