36話 嘲笑
どうも佐藤です。休み時間に中庭にある自販機にジュースを買いに行ってます。
ややっ、あの特徴的な髪型の女性は、黒野さんに違いありません。
「黒野さーん」
僕が声をかけると、黒野さんは後ろを振り向き、溜息混じりに、さも残念そうな顔をしました。
「お前さ、もしかして私をストーカーしてんのか?」
「ち、違いますよ。たまたまです」
あまりに不名誉な言いがかりです。本当にたまたまなのに。
僕は黒野さんと横並びになって話を始めます。
「黒野さんもジュー……いやブラックコーヒー買いに来たんですか?」
「愚問だな。当たり前だろ」
キラリと光る鋭い眼光。やはり生粋のブラックコーヒー党ですね。
と、こんな話をしながら自動販売機のところまで歩いていると、自動販売機の前でペチャクチャ話をしている男子生徒二人が居ました。見覚えがあまり無いので下級生の様です。
自販機の前でお喋りなんて、あまり行儀が良いとは言えませんね。
人見知りの僕が声を掛けるのを躊躇していると、黒野さんはすんなり二人に声を掛けます。
「すまんが、コーヒーを買わせてくれないか?」
黒野さんの声に、二人の男子生徒は怪訝そうな顔で彼女を見てきました。明らかに感じ悪いです。
そうして二人の内の一人が黒野さんに、こんな風に聞いて来るのです。
「アンタ誰だよ?」
「あぁ、二年の黒野 豆子ってもんだ」
「二年……先輩か。いや待てよ、黒野?」
何かに気付いた様子の男子生徒。何だか嫌な予感がします。
「あーアンタ、色んな相談に乗ってるって噂の人か。相談者から缶コーヒー巻き上げてるんだろ?」
何て失礼な物言いでしょう。僕の頭にカーッと血が上ります。しかし、それに気づいたのか黒野さんが右手で僕を制します。黒野さんはどんな時でもクールです。
「あー俺も知ってるわ。髪がチリチリとか言ってたもんな」
「プッ、本当にチリチリなのウケるな♪」
男子生徒は二人で黒野さんをあざ笑います。流石にこれは何か言った方が良いと思うのですが、黒野さんは一向に興味無さそうな顔をしています。
「ねぇ先輩。俺達の相談も受けて下さいよ。恋の悩みなんですどー♪」
そんなことを言う男子生徒にも黒野さんはいつもの対応をします。
「良いけど、ブラック缶コーヒーは報酬で貰うよ。」
黒野さんが一向に態度を変えないのが面白く無いのか、男子生徒二人はチッと舌打ちをしました。
「缶コーヒーなんてあげれないですわ。それじゃ」
二人の男子生徒は自販機から去って行きました。その途中「ケチ臭い」だの「頭がチリチリ」だの黒野さんをバカにしたような罵詈雑言が聞こえてきて、僕のイライラは頂点に達しました。
「黒野さん‼やっぱり僕アイツらに何か言い返してきます‼」
「バカ、やめとけ。それよりもコーヒー買おうぜ。カフェインが不足してるんだ」
「黒野さんはバカにされて悔しく無いんですか⁉」
僕が鼻息荒くこう言うと、黒野さんはこう即答しました。
「別に悔しくねぇ。他人からどう言われようが構わんよ」
「バカにされて、ど、どうしてそんなに冷静でいられるんですか?」
「だって、その人がどう思おうがその人の勝手だし、それにイチイチ目くじら立てる程、私も暇じゃない。あんなの私にとって怒るに値しない些細な事さ」
「……マジですか?」
「そりゃそうだよ。それにな私はそんなに他人に期待して無いんだ。だから別にどれだけアホなことをされようが許容範囲だ。私にも過度な期待はして欲しく無いし、それ故に私は他人に過度な期待はしない。そういう考えなんだよ」
いや、どんだけ器デカいんだよこの人。こんな風に達観した考えの女子高生が居るなんて……でも、そこに痺れる憧れる。
「く、黒野さん‼一生付いて行きます‼」
「だから付いてくんなよ、鬱陶しい」
ガチャコンと缶コーヒーを買って、それを取り出している黒野さん。
その時、僕はあることがふと頭を過ったので、聞いてみることにした。
「黒野さん」
「ん?どうした?まだ何か聞きたいのか?」
「はい、仮にあの二人が黒野さんのことを黒豆って呼んでたらどうしました?」
この問い黒野さんは、普段は見せない満面の笑みを僕に見せてきて、僕は背筋が凍りました。
「そんなの言わなくても分かるだろ♪」
「は、はい。」
やっぱり黒豆呼びだけは許せないのだと分かり、あの二人の男子生徒は命拾いしたなぁと、僕はしみじみ思うのでした。
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