35話 情報
「私、テレビが怖いんです」
どうも黒野だ。今の言葉は、今日の相談者である高校一年生の
やれやれどうやら今日は少しだけ壮大な相談になりそうである。
小柄で可愛らしくオドオドした様子の彼女だが、一体テレビの何が怖いというのだろう?
「テレビの何が怖いだい?」
「だ、だってテレビって嘘ばかりじゃ無いですか。バラエティ番組はやらせだし、本当か嘘か分からないことも大袈裟に言って、あたかもこれが真実なのだと視聴者に訴えかけてくる。テレビに出て来る外国人は妙に日本びいきな人ばかり、ニュースでは視聴率を上げる為に人が死んだだの、強盗がありましただの暗い話題ばかりピックアップしてくる。そんなテレビが怖くて嫌いなんです」
なるほどな、決めつけも入っているかもしれないが、存外この子の言うことが全て噓だとも思えない。テレビは所詮エンターテインメント的な側面があるだろう。視聴率を稼がなければテレビ局は困るだろうし、なるべく人が見るような話題をチョイスしたり、脚色したり、そういうのは割とあると考えるべきだ。だがそれによって視聴者は嘘を鵜吞みにしたり、盲目的に信じてしまうのは確かに由々しき事態なのかもしれない。
っても、私テレビ見ないからな。もっぱら読書かスマホで猫の動画を漁ってる。
「でも家ではパパもママも居間でテレビを見て笑ってるんです。私は家族団らんが好きだから一緒に居るけど、たまにテレビで自分の嫌な物が映ると耐え難くて辛いんです。だからどうしたものかと」
「なるほど、なるほど」
少し考えてみたが、こんなの結論から言えば答えは一つじゃ無いだろうか。
「もう君が居間に居ないか、家族にテレビが怖いと打ち明けるしか無いと思うけど」
私がこう言うと、明らかに心ちゃんは狼狽した顔をした。
「そ、そんな、カミングアウトして家族の間に亀裂が入ったらどうすれば良いんですか?」
「たかがテレビで亀裂が入るなら、それはそれまでの家族だったってことだよ。それとも君のパパママはそんなことで君のことを嫌いになるのかい?」
「……いや、多分大丈夫だと思います。」
「だったら大丈夫でしょ。それでもしもギクシャクするようになったら、また私のところに来なさい。私がパパとママに『たかがテレビで娘を困らせるんじゃねぇ‼』って言ってあげるから」
「は、はい、分かりました。お話を聞いてくれてありがとうございます」
心ちゃんは深々とお辞儀をして、缶コーヒーを置いて去って行った。
良い子だったな、置いて行ったのがブラックコーヒーじゃなくて、甘ったるしいMAXコーヒーだけど、そこには目をつむろう。
テレビが日常に浸透して長いだろう。最近では動画配信サイトなどもあって、昔より情報が散乱している世の中だが、一つ言えることは信じるべきことを判断するのは自分だということだ。人よ、迷うことなかれ。
柄にもなくそんなことを想いながら、甘ったるしいMAXコーヒーを胃に流し込んだ。
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