38話 睡眠

黒野だ。体育祭が終わった日は、流石に相談者が顔を見せることも無く、私も疲れていたので、教室で黄昏るのも程々にして家にすぐに帰った。

それでダラダラと家で過ごし、割と早く布団の中に入って寝ようとした。

コーヒーのカフェインの影響で寝つきは悪い方なんだが、今日は騎馬戦で柄にもなく頑張ってしまったのでクソ眠い。これならゆっくり眠れそうである。

しかしながら人生というモノは、そう簡単にいかないのが常である。


“ブゥーーーーーーーーーン”


寝て暫くして、耳障りに聞こえる羽音に目を覚ます私。どうやら季節違いの蚊が私の部屋に侵入しているらしい。右の手の甲も無性に痒いので、もう刺された後のようだ。とにかく痒い。これでは寝ることに集中できない。

とりあえず私は電気の紐を引っ張り、部屋を明るくした。すると羽音もしなくなり、蚊なんて居なかったんではないか?と私に錯覚させようとしてきたが、右手の甲の痒みは幻覚なんかではない。

そうか、結局のところ私は安眠出来ない宿命にあるのだ。そうと決まれば持久戦である。時刻はもう1時を越えていたが、私は冷蔵庫からストックしているブラックの缶コーヒーを取り出し、ゴクゴクと飲みながら長い戦いに備えた。

蚊の野郎、私のことを刺したことを後悔させてやる。


「フフフフフフッ、アーハッハハハ‼」


深夜のテンションで高笑いをしていたら、この後、起きて来た祖母ちゃんに頭を叩かれたのは言うまでもない。

こうして私は寝ずの番をし、朝五時ごろになって、私の血を吸いまくって動きにのろくなった蚊を発見し、コーヒーの缶の底で押しつぶした。

潰された蚊は缶の底に血で模様を描き、これは一種のアートだなと我ながら感心した。いやよくよく考えたらアートでも何でもないのだが、やはり深夜のテンションである。


その後、すっかり明るくなって、結局一睡も出来ないまま、フラフラとした足取りで学校に行くことになった。

だが大丈夫、少しであるが寝る算段は付いている。一時間目を睡眠タイムにすればいい。


「クカーーーーーーーー。」


「おい黒野、堂々と寝るな。俺の歴史の授業を聞け。罰金一万円とるぞ。」


そんな金原の声が薄っすら聞こえたが知ったことじゃ無い。どうせ教科書を読むだけのペラペラな授業なのである、ハッキリ言って聞くに値しない。

このあと私は、三度目のクマと会う夢を見て、ウサギと付き合いだしたという報告を受けた後に食べられた。

やれやれ、これじゃあ安眠できたとは言えないな。


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