39話 献血

黒野だ。

今日も今日とて放課後に相談室だよ。

それにしても、最近の虫スプレーは凄いな。持続力はあるし、あれのおかげで蚊が凄い死ぬ。

てかウチにあれだけ蚊が居たんだってビックリしたわ。

と、今回は虫スプレーに対する感動を語る回では無い。


“ガラガラ‼ピシャ―――――ン‼”


激しく開く教室のドア。壊れるぞと私が心配するぐらいの開け方である。

そうして開いたドアの外には、隣のクラスの・・・えーっと、西口 明美(にしぐち あけみ)が立っていた。ちょっとポッチャリしてて、黒髪ツインテールの彼女が血相を変えて教室に入って来た。

こんな入り方をしてくる輩である。どうせロクな相談ではない。前みたいに私に対するクレームなのかもしれない。

西口は私の席にツカツカと歩いて来て、立ったまま私をキッと睨みつけた。見下されている形になっているので、どうしても圧迫感がある。

そして、こんなことを言うのである。


「西口さん、どうして昨日の献血に来てくれなかったの?」


「献血?・・・あぁ、昨日は用事があってな。」


そういえば昨日の日曜日に献血があるから来てねと、コイツが先週呼びかけまくってたな。確か親戚に看護婦が居て、その関係で献血の呼び込みをしてるとか。

前の時は行けたんだけどな。意外と献血って時間も掛かるし、そのあと激しい運動も出来ないしで、面倒なことでもある。


「この前の時は来てくれたのに、どうして?」


「どうしてって言われてもな。用事があったからとしか言えんな。」


用事というのは喫茶Maryでのバイトであり、行くと言っていた手前、断ることが出来なかったのである。


「どうせ大した用事じゃ無いんでしょ?来なかった人みんなそう。今日聞いて回ったら、大した用事も無いのに献血に来なかった。おかげで昨日は前の時より少ない参加者だった。献血って大事なんだよ?病院では輸血用の血が足りて無いんだよ?それを分かってるの?私達が献血しなかったので死人が出てるかもしれない・・・言わば献血に行かない人が人を殺していると同じことだよ。」


淡々としていて怒気が籠ってる西口の言葉。献血に対してここまでの情熱を上げる事の出来る高校生も珍しいが、ちょっと熱くなり過ぎだろ。

やれやれ面倒だけど、少しは言い返すか


「待てよ。あのな、献血なんて皆にしたら二の次だぞ。大体が献血の理由なんて、深い所を突き詰めて行けば、良いことして気持ち良くなりたいだけなんじゃないか?」


「はぁ?それって私もそうだって言いたいの?」


ソフトに逆鱗に触れてしまったらしく、西口はもう私に飛び掛かって来そうな剣幕である。

だが私も、話し始めたからには自分の意見を取り下げる気はない。


「自分の為じゃないとは言わせないぜ。確かに献血は人助けになるかもしれないが、自分は人を助けているという実感を感じたい、それこそ献血する本質だろ?誰だって良いことして気持ち良くなりたいんだよ。私だってそうだし。」


「わ、私はそんな自己中心的な気持ちで献血して無いわ‼バカにしないで‼」


「いやお前なんて特にだよ。献血する人を集めて悦に浸ってる部分が無いとは言わせないぜ。そうやって人が集まらないからといって、腹をかいてるのが、その証拠だよ。でも悪いことじゃ無いと思うぜ。だって献血で人が助かるのは良いことだからな。でも献血なんてものは強要されるもんじゃない。献血したくて、献血する暇があるからするもんだろ?無理矢理に半強制的にやらされるなんて苦痛でしかない。」


「きょ、強要だなんて・・・私はただ・・・。」


私の言ったことが運良く西口の心に刺さったらしく、酷く狼狽した様子である。荒事にならなくて良かった。


「献血の勧誘は続ければ良いさ。でもな、そんな怒って回る様な事はしない方が良いぜ。増々献血に行く人が少なくなるって火を見るよりも明らかだからさ。まぁ今度はもう少し早めに言ってくれれば、私だって都合が合えば行くからさ。」


「・・・アナタの言う通りね。私ったら熱くなって周りが見えて無かったみたい。ごめんなさい、明日にでも怒った人たちに謝りに行くわ。次の献血の時は、出来るだけ早めに言うように心掛けるわ。缶コーヒーいる?」


どうやら西口は相談室のシステムを知っているらしい。だがここは貰えんな。


「これは相談じゃない。二人で献血ガールズトークしただけだからノーカウント。缶コーヒーは要らないよ。」


「そう、じゃあ今度は恋愛相談とかで利用させてもらうわ。」


「はーい、またのお越しをお待ちしております。」


とは言いつつ結構喋って喉が渇いたので、やっぱり貰っとけば良かったなと、プチ後悔したのは内緒である。










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