19話 逆上

「よしよし、概ね作戦成功だな。」


うっぷ、佐藤です。ひたすらコハダとタコばかり20皿ほど食べてグロッキー気味です。黒野さんは作戦成功だというけど、本当にこれで大丈夫なのかな?

只今、暗がりの公園のベンチに三人で座りながら、依頼者の亀田 祥子さんはスーパーのパックのお寿司を食べています。あれだけ食べれなかったんだから仕方ないですね。

それにして一つだけ気になることがあったので、これだけは亀田さんに聞いておかないと。


「亀田さん、アナタは赤身の魚とイカが好きだと聞いていたんですが、どうしてコハダとタコを最初に頼んだんですか?」


「モグモグ・・・私って食べる時に徐々に気分を盛り上げていく質でして、ある程度体を慣らしてから好きな物を食べる様にしているんです。だから最初は絶対にコハダとタコを食べたかったんです・・・モグモグ。」


なるほどなぁ。現実でモグモグ言う人を初めて見た。


「まぁ、何にせよ。これでストーカー野郎を煽るだけ煽ってやったから、そろそろ堪忍袋の緒が切れてアタシ達のところに来るはずだ。」


自信満々の黒野さん。本当にそんなに上手いこといくのでしょうか?まぁ、いかなかったら僕の頑張りは水泡に帰すので、何が何でも上手くいって欲しいですね。暫くコハダとタコは食べれない体になってますし。


「テメーら‼ふざけんじゃねぇぞ‼」


公園の入り口の方からそんな声が聞こえて、ビクッと体を震わせる僕。そっちの方を恐る恐る見ると、そこにはチェックのスーツを着た、まごうこと無きストーカーが立っていました。眉間にシワを寄せて真っ赤な顔をして、呼吸も荒くて興奮状態の様です。


「お前等な‼人の恋路を邪魔して楽しいのかよ‼」


ストーカーは凄い剣幕なので、陰キャの僕は怖くて何も出来そうにありませんが、こんな時でも怯まないのが黒野さん。


「はん、人が食べたい寿司をひたすら食うのが恋路になるなら、息吸って吐くだけでも恋路になるっての。ズレてんぞお前。」


ハッキリキッパリと黒野さんはそう言いますが、本当に勇気のある人です。そいうところに憧れているわけなんですが、ストーカーはそれを聞いて更に怒り心頭らしく、その場でダンダン‼と地団駄を踏み始めました。


「ぶっ、ぶっ殺すぞ‼俺と祥子さんは結ばれる運命なんだよ‼」


「モグモグ・・・えっ?そうなんですか?」


突然の運命を宣言され、寿司を食べる手を止めずにキョトンとしている亀田さん。この人も美人だけど変わった人ですね。


「祥子さんそんなワケ無いから、あんなチェック男の言うこと信じないで。」


「ですよね・・・モグモグ・・・あまり私の好みのタイプじゃありませんし。あと食事を邪魔してくる人は嫌いです。」


「だそうだぞ。お前の作戦ダメじゃん。」


二人で意図せず波状攻撃して、ストーカー男に口撃する二人。女って団結すると容赦ないですよね。怖い怖い。


「う、うっせぇ‼畜生‼本当にぶっ殺してやる‼」


大きな体を揺らしながらストーカー男はコッチに突進してきました。突進と言ってもスピードは無いので、これなら走れば逃げ切れそうです。僕もテンパっていますが、このぐらいなら頭が回ります。


「く、黒野さん逃げましょう‼亀田さんもいつまでもお寿司食べてないで‼」


しかしながら亀田さんは首を傾げながら一向に食べるのをやめないし、黒野さんに至っては立ち上がって突っ込んで来るストーカー男を背にしています。一体どう言う事?


「黒野さん何してるんですか⁉気でも狂いましたか⁉」


「しっ、うるさい。今集中してるから話しかけるな。私を信じて待ってろ。」


えぇ、このシチュエーションで逆に怒られるってことあります?

この場合男の僕が身を挺して二人を守るのが普通なのでしょうが、黒野さんが私を信じろと言っているので、僕は信じてみようと思います。流石にヤバいと判断したら助けますし。


「うがあああああああああああああああ‼」


ストーカー男は黒野さんダンダン‼っと音を立ててながら突っ込んで来て、もう彼女の背中に手が届こうとしています。その瞬間、黒野さんが左足を軸にして体をグルリと回転させ、右足を高々と上げてストーカー男の顔面に鋭いハイキックを見舞いました。


“ガッ‼”


「がぁ‼」


ストーカー男は突然のカウンターキックが決まってしまい、頭を蹴られた衝撃で意識が昏倒したのか、そのまま白目をむいて、その場に仰向けの状態で倒れてしまいました。ゆっくりとストーカー男に近づいて顔を覗くと、蹴り跡のある顔で泡を吹いて失神している様なので多分もう襲ってくることは無いと思います。

僕はあまりの手際良く黒野さんが巨漢を退治したのを見て感動すら覚えますが、当の本人は右手の人差し指を立てて、右手を天に向かって伸ばすポーズをしています。


「なんですかそれ?」


「はぁ?天の道を行き、総てを司る男を知らないとか、それでもお前男の子かよ?」


またなんか怒られちゃいましたが、なんででしょう?




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る