20話 仕事

 どうも黒野 豆子だ。

 アタシがストーカー男を蹴り飛ばしてしまい事件は収拾でき・・・るわけはない。

この場はどうにかなったとしてもストーカー男が再犯をする可能性は十二分にある。よってここで助っ人の登場である。


「いやいや見てたよ。凄いキックだねぇ」


 公園の木陰から出てきた、黒いスーツの上から茶色のトレンチコートを着た、赤いウェーブががった髪をした女の人。この人は佐藤のお母さんの妹さん、つまり佐藤の叔母さんに当たる塩田 明美(しおた あけみ)さんといい。都合の良いことに刑事をやっている人である。

 今回の騒動の証人として木陰から一部始終を見てもらっていたわけだ。

 佐藤から啓示をやっている叔母さんがいると聞いて驚いた時は、どんなにいかつい女性なのだろうと想像したが、実際会ってみるとシュッとしたスタイル良い美人の女刑事さんだったので驚いた。


「明美おばさん。出てくるの遅いよ。襲い掛かって来た時に僕らを助けてくれないと」


「いやよ、だって危ないじゃない。私だって女よ。刑事の前に女よ」


 女の前に刑事では無いんだ。でも実際危ないよな。どうしたって男の方が力が強いワケだし、アタシのライダーキックだって奇襲だから成功するようなもんだけど、実際ガチで戦ったらストーカー男にやられていたかもしれない。


「にしても黒野さんは凄いねぇ。空手でもやってたの?」


「はい、空手と柔道を少しだけ」


「ははっ、一文字隼人みたいだ」


 おっと、明美さんは仮面ライダーに詳しい人かな?だとしたら今度コーヒーでも飲みながら語らいたいものだ。

 明美さんはトレンチコートのポケットから手錠を取り出し、ガチャガチャとストーカー男の手首にそれを掛けた。生で手錠をかけられるところを始めて見た。


「はい、21時47分現行犯逮捕と。パトカー呼ぶかぁ。三人ともこれから事情聴取とかあるけどごめんね。かつ丼とか食べたい?」


「いやコーヒーでお願いします。」


 アタシはこう即答したのだが、寿司を食べて終わった祥子さんは口をモグモグさせながら。


「モグモグ……私はお寿司で」


と言った。食べ足りなかったのかな?



~一週間後~


"カンカラカーン”


「い、いらっしゃいませー」


 まだ言い慣れないな。接客業なんてやっぱり向いてない。

 アタシはストーカーである宝田 雄一を捕まえるのに協力した報酬として、喫茶【Mary】の夏休み限定バイトのウェイタ―として働かせて貰えることになった。報酬として働くというのは変に思われるかもしれないが、【Mary】は元々バイト募集なんかしていなかったのだから、破格の報酬と言えるだろう。

 これでコーヒーを飲む金も確保できるし、バイトで夏休みを有意義に過ごすことが出来る。カウンターの中にずーっと居るだけでコーヒーの匂いが鼻腔をくすぐり、何とも言えない幸福感がある。


「おーっす♪アンタが働いてるところ見に来てやったぞー♪」


 ……最悪だ。寄りにもよって真知子の奴がニタニタしながら様子を見に来やがった。何処からそんな情報を手に入れてきたんだろう?全くもって謎である。

真知子はカウンターに座り、まだニタニタしている。


「注文は?というか金だけ置いて帰れ」


「おい塩対応だな。店長この店員さんクビにした方が良いですよ」


 マスターは微笑を浮かべるだけで真知子の言うことに返答すらしない。こういう態度の悪い客の相手は慣れているんだな。


「にしてもさ。何でメイド服じゃないの?それってギャルソンエプロンって言うんでしょ?男装に目覚めたの?」


「阿呆、アタシがメイド服なんて着るわけ無いだろう?」


「確かに一ミリも似合いそうにないしね」


 むっ、頭から否定されると流石に女として思うところがある。


「メイド服着て一緒に働きたかったんですけどね」


「うわっ‼」


 また突然にアタシの隣に現れる祥子さん。あの事件以来この店の制服である白と黒のメイド服を着ている。美人は何を着ても絵になるのは本当だ。こんな人と同じ服装をしたら私は良い引き立て役になってしまう。それも私がメイド服を着ない理由の一つでもある。


「お姉さんこんにちわ♪何とかしてその服を豆子に着せることは出来ませんかね?」


出来るわけねぇだろバーカ。早くカツカレーでも食って帰りやがれ。


「一度だけ着てもらったことあるんですけどね。写真見ます」


「見たいです♪」


 えっ?ちょっと。

 メイド服のスカートのポケットから一枚の写真を取り出す祥子さん。そこには顔を赤らめながら恥ずかしがっている出来損ないのメイドが映っていた。

 アタシが悲鳴を上げながら、その写真を奪い取りビリビリに破いてゴミ箱にシュートしたのは言うまでも無いだろう。






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