21話 親交

私の名前は田村 玲子(たむら れいこ)。とある会社で経理をしている者です。

私には悩みがあり、その悩みがドンドン大きくなって、とても苦しくなってきたので誰かに相談したくなったのです。

そんな折、会社の近所の喫茶【Mary】の新しく入った女のウエイターさんが人の悩みを聞いて的確なアドバイスをくれるという噂を聞いたので、私は会社の休み時間に【Mary】行ってみることにしました。


“カンカラカーン”


【Mary】の入り口の扉を開けると響き渡るベルの音。店内は少し薄暗く、落ち着いた感じの良い店です。お客さんは三人ほど居ますが、どの方もモクモクとランチを食べたり、コーヒーを飲みながら静かに過ごしています。


「いらっしゃーい。」


ダウナー系の女の人の声がしてカウンターの方を向くと、そこには頭がモジャモジャで目の下のクマが印象的なウエイターさんの姿がありました。ウエイターエプロンをしているので、この人が噂の相談を聞いてくれるウエイターさんだと思います。

とりあえずその人の前のカウンターの席に座りましたが、いざ相談をするとなると緊張してしまいますね。


「注文どうします?」


おしぼりと水の入ったコップを私の前にテーブルに置いて、ウエイターさんがそう聞いてきたので「アイスコーヒーを下さい」と注文をしました。

お昼ですが、あまりお腹が空いていないのでアイスコーヒーだけで良いです。

それにしてもこのウエイターさん。よくよく近くで見てみると、かなり若いです。高校生か、はたまた大学生か、一体どんな理由でこの場所に居るのか興味は尽きません。


「はい、アイスコーヒー。」


奥から白髪のマスターらしき人が出てきて、アイスコーヒーを私の前に置いて、また奥に帰って行きました。

夏場で喉が渇いていた私はストローでアイスコーヒーをすすりましたが、そのアイスコーヒーがあまりに美味しかったのでフーッと深い溜息をつきました。こんなコーヒーを出す店があったなんて、これだけでもまた来たいと思いますね。


「お客さん、美味しそうにコーヒー飲むね。アタシも勤務中だけど飲みたくなってきちゃったよ。」


ウエイターさんがそう羨ましそうに話し掛けてきました。もしかして今が相談を持ち掛けるチャンスじゃないでしょうか?


「あ、あのウエイターさん。少し相談したいことがあるんですが、聞いて貰っても良いですか?人生相談的なヤツなんですが。」


私がそう言うと、ウエイターさんは一瞬渋い顔をしましたが「とりあえず話は聞きます」と受け入れてくれました。本当にありがたいです。


「じゃあ遠慮なく。私とある企業で経理をさせてもらってるんですけど、そこに苦手な女の人が居まして・・・その人のことはこれから仮称でAさんということにしますが、そのAさんは皆にニコニコして愛想が良いんですが、ある一部の人、私とかにきつく当たることがありまして。例えば私に彼氏が居ないことに上げ足を取って、どうして居ないの?とか、早く作らなきゃとか皆の前で言ってくるんです。こういうのってマウントって言うんですかね?仕事でも何かにつけてキツイ言い方もしてくるし、全員じゃなくて一部の人にだけ言ってくるのもモヤモヤしてしまって。」


正直、言われたことを想い出して夜寝れなくなったこともあります。その人に会いたく無くて会社に行きたくなくなったり。対人関係で揉めるなんて初めてで、どうしたら良いのか分かりません。


「その人、基本的には良い人なので全ては嫌いにはなれないんですけど、もう何かできつく言われるのが嫌なんです。どうしたら良いでしょうか?」


この私の問いに、ウエイターさんは間髪入れずにこう答えました。


「ムカつくなら関わり合いにならない方が良いですよ。誰とでも仲良しこよしなんて成れやしないんだから。」


あまりにキッパリ言われたので私は少し驚いてしまいました。相談のベテランになるとこうも返答が早いものでしょうか?


「そ、そうですかね?」


「そりゃそうでしょ。自分の周りに10人居たら2人は自分のこと嫌いって言うし、マウント取ってくる上辺だけ良いクソ野郎なんて聞いてるだけで腹立ちますよ。切って良し。」


「えぇ・・・でも急に話さなくなったら変に思われませんかね?」


「アタシ的にはそんな奴に変に思われても構いませんけどね。そしたらお客さん、そいつに会ったら挨拶ぐらいはして、あとはあまりそいつに近づかないで、相手が近づいて来た時だけ手早く用件を済ませる。これがベストですよ。自分から話し掛けるのはNGです。」


何だか凄い的確なアドバイス。このウエイターさん人生の達人なのでしょうか?


「まぁ、これってアタシ個人の考えなんで、お客さんに強制したりはしたくないんですが、どうですかね?」


「い、いや、ありがとうございます。さっそく今日からやってみます。」


私はお礼を言いながら、汗をかいたアイスコーヒーのコップを持って、コップに口を付けてゴクゴクと飲みました。プハァと全部飲み干すと何だか自分が生まれ変わった様な気がして気分が凄く良かったです。


お会計の時にクールなメイドさんが「これ初めてのお客さんに配ってまして」と言いながら、こっそり私にとあるブロマイドを渡してきました。

そこには先程私の相談に乗ってくれたウエイターさんが恥ずかしそうな顔でメイド服を着ている姿があり、思わずブッと吹き出してしまいそうになりました。

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