68話 体重

 私の名前は秋野あきの 美野里みのり。高校二年生の女子なのに身長158センチ、体重70キロオーバーの女の子である。

 今日はとある悩みを持って黒野さんの相談室を訪れた。はい、皆さんお察しの通りダイエットについて相談しに来たの。


「黒野さん、私どうやったら痩せられるかな?」


”パリパリ……”


「うーん、まずはそのポテチを食べる手を止めたらどうかな?」


 はっ、いけない。呼吸する様にポテチを食べてた。呼吸とポテチはデブの界隈では同意語になってるんだけどね。


「そうなの。私根っからのデブなの。もう身も心までデブなの」


 悲しそうな顔でポテチの袋を机の上に置く私。開け口を黒野さんの方に向けたのは、コチラに向けていると、また当たり前の様に食べ始めちゃうから。

 黒野さんはポテチに興味が無いらしく、私の方をジーッと見つめている。この世界にポテチに全く興味を示さない子が居るなんて初めて知った。


「黒野さんは痩せているけど何か特別なことしてるの?」


「いや別に、夜食で屋台のおでん食べたりもしてるし、痩せようと思ってこのガリガリの体型なわけじゃないよ」


 根っからのガリとは羨ましい。あと屋台のおでんというのも羨ましい。めっさ牛すじ食べたい。あとガリとか言ってたら寿司も食べたくなって来ちゃう。


「秋野さんよ。何で涎垂らしてるの?」


「はっ、ごめんなさい……私ったらブタみたいよね」


「いや、人間だろ。どっからどうみても」


 わ、私を人間扱いしてくれた。黒野さんが男なら恋に落ちているところである。だが悲しいかな、黒野さんは女である。


「それで何で痩せたいの?」


 黒野さんからそう聞かれ、私は正直にありのままの気持ちを彼女に伝えることにした。


「なんとなくよ。皆が痩せろ痩せろいうから、なんとなく痩せてやろうかな?って思っただけ。本当にただそれだけなの」


 そう、大した理由なんてありはしない。ここで好きな人が出来たから……なんて言うと物語が始まるのだろうけど、私のことをブタブタ罵ってくるクズ男達なんかアウトオブ眼中だわ。


「私ね、子供の頃から太ってるの。だから代謝の良い内に一回ぐらい痩せようかなって思ってね。青春の思い出ってヤツよ」


「へぇ、なんか良いな。その理由」


 感心したようにニコリと笑う黒野さん。クラスが違うけど、見掛けるといつも不愛想な顔をしている彼女がこんな風に笑うところが見れるのは、もしかしてかなりレアなのかもしれない。


「ダイエット応援するぜ。やり方とか知らないけど、とりあえず間食は避けた方が良いな。ということでポテチは没収」


 ポテチの袋を奪っていく黒野さん。私はこんな酷いことを出来る人間が世の中に居たことに絶望した。


「黒野さん酷いわ……この鬼‼悪魔‼オタンコナス‼」


「えぇ、ポテチの袋を取っただけでそんなに言うのかよ。つーかオタンコナスって久しぶりに聞いたわ」


 秋茄子は嫁に食わすなって言うぐらい美味しいのよねぇ。ミートスパゲッティに入ってるのが好きよ。


「また涎垂らしてるよ。どうせナスの料理でも考えてるんだろ。ある意味凄いな。食べるの制限してウォーキングとか初めてみたら?私も時間が空いている時に一緒に歩いてやってもいいよ」


「本当に?私は牛の歩みより遅いけど良いの?」


「別に良いよ。缶コーヒー飲みながらブラブラするのも乙だからさ」


 黒野さん、なんて良い人なのかしら。私のダイエットの為に並走ならぬ並歩までしてくれるなんて、マジ天使だわ。

 牛といえば私は宮崎牛が好きよ、脂が乗ってて美味しいのよね。コーヒーは砂糖とミルクがタップリなのをゴクゴク飲むのが……


「またまた涎出てるよ。こりゃ痩せるの大変そうだな」


 かくして私のダイエットは本格始動を始めたわ。みんな応援よろしく♪




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