69話 再会
黒野だ。
ダイエットに本気を出すことにした秋野 美野里に俵田 太を紹介した。
ダイエットに成功した俵田なら秋野のことを導いてやれると思ったからだ。
「お願いします、師匠‼」
「し、師匠って……僕はバナナを食べてるだけなんだけどな」
二人の間にこんなやり取りがあった後、秋野が私に一礼して教室を出て行った。この件で私が出来ることはもう無いだろう。
その日の帰り道、佐藤が途中まで一緒になった。なんでも今日はプラモの発売日らしく、ウキウキしている様子だった。自殺しそうだった男がこんなに楽しそうにしているのだから、やはり人生は生きた方が得なのかもしれない。
「そういえば黒野さん。あと二週間で修学旅行ですね」
「嫌なことを思い出させるな。腹立つわぁ」
「えぇ……修学旅行に恨みでもあるんですか?」
小学校の修学旅行中のバスで吐いて以来、私は修学旅行というものがどうも好きになれない。中学の時もバスで吐かないことばかり考えていて、全然何をしたか覚えていない。ゆえにわざわざ高い金を払ってまで修学旅行したいとは思わない。
近所のホテルに泊まれば良くないか?
「はぁ、修学旅行なんて無くなればいいのに」
「どんだけ修学旅行に行きたくないんですか。楽しそうじゃないですか、京都に三泊四日なんて。清水の舞台から飛び降りる気持ちで旅行しましょうよ」
「なんでそんな気持ちで旅行しないといけないんだよ。私はごめんだね」
二又の分かれ道で佐藤と別れ、私は自分の家に帰ってテレビを見ながらごろごろしていた。すると祖母ちゃんが帰って来るなり、私にこう言うのだ。
「あんた、もうすぐ修学旅行だね。ちゃんと生八つ橋を買って来ておくれよ」
また修学旅行の話題か、もうウンザリだ。
「うるさいなぁ。そんなのネットで注文して買いなさいよ」
「孫が祖母ちゃんに口答えすんじゃねぇ‼」
頭をベシッと叩いて来る祖母ちゃん。今のご時世これすら虐待になるかもしれないが、ここ黒野家では、この程度は撫でる程度なので、法律は適応されないのである。悲しいことにね。
それから晩ご飯を食べて、風呂の入って、寝る前にドリップコーヒーを飲んで、歯磨きをしてから寝床に入った。どうせ今日も寝れないのだろうと考えていたけど、スッと寝ることが出来たので嫌な予感がした。だって私の寝つきが良いなんておかしいじゃないか。
案の定、目を開けるとそこにはクマが居た。
「お久しぶりです黒野さん。クマです」
「うん、久しぶり」
数か月ぶりなので、あまり久しぶりの感じがしないのだが、何せ夢なのでツッコむだけ野暮である。
いつもの洞窟の中で目覚めた私。寝巻から制服に着替えているのも夢だからだろう。
「ウサギさんとは仲良くやってるかい?」
「はい、この間はナイトプールに行って、パーティピーポーしてきました」
「この辺、ナイトプールもあるのかよ」
山の中にナイトプールなんてあまりに奇々怪々である。私の夢どうなってんだ?
「で、また何の悩みだ?もしかしてお腹空いたのか?だったら早く食べな」
もう食べられることも慣れた私は、大の字に寝ていつでも食べられる準備はOKだった。
「いえ、今回は客人が居りまして、どうぞ入って来て下さい」
クマがそう言うと、白い狐がトコトコと洞窟の中に入ってきた。
そして私に近づいて来たので、よく見ると毛並みの良い上品そうな狐である。
「お久しぶりやね、黒野さん」
「……えっ?」
突然、狐が喋り始めたのは夢だから良いとして、この狐、私の知り合いのような口ぶりをする。知り合いに狐、それも白い狐なんて……あれ?
何だか引っ掛かる、居た様な居なかったような。
「あぁ、この姿じゃ分かりゃせんかもねぇ。ほな、これならどうや」
京都風の言葉の後にドロンと音を立てて白い狐が煙に包まれると、煙の中から巫女服を着た、見覚えのある狐耳の美少女が立っていた。
「白狐やで。覚えててるやろ?」
両手を丸め、手首を曲げた狐ポーズを取る白狐。このフサフサモフモフの尻尾を忘れるわけも無かったが、わざわざ神様が私の夢に出てくる時点で嫌な予感がする。
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