42話 電車
あーしの名前は
今日は同じクラスの豆子に呼び止められて、教室で人を待ってるみたいな?私に用事がある人って誰だろ?もしかして、一か月前に別れた彼氏の武志?
いやいや五股してた男が一体どの面下げて復縁に来るんだよ。ありえねーって私。
でも武志が来たらコロッとまた許しちゃいそうな自分が怖いんだわ。
「豆子ちゃんさー、一体誰が来るのさ?」
「待ってりゃ分かるさ」
「へーい」
相変わらず缶コーヒー飲みながらクールな豆子ちゃん。こういう雰囲気が相談したくなる理由だよねー。あーしもよく恋愛相談を豆子ちゃんにしたし、別れた時もグチ聞いて貰ったっけ、だからこの子はマジで神的存在なワケ。ウケる―♪
”ガラガラ……”
うわっ‼教室の前のドア急に開いたからビビったー。そこから出てきたのは眼鏡を掛けた三つ編みオサゲの女の子。確か同じ学年の子だよね。クラス知らないけど。
電車でよく一緒になるから覚えてるわ。
「豆っち、この子があーしに用がある子?」
「そうだよ。あと豆っちって言うな」
こんな真面目そうな子が、あーしに何の用があるんだろう?
私の名前は
まぁ、上の順位に天才タイプが居るから一番には成れないのが目下の悩みの種だが、勉強量なら誰にも負けない自信がある。
そんな私は電車で高校に通っているのだが、よく一緒になるギャルが居る。
「もしもし、あーしだけど。うんうん♪今から遊び行こうよ♪ギャハハ♪」
色黒で金髪ワンレンのチャラチャラしたギャル。そんな女が長椅子に座ってよく騒いでいる。周囲の人たちもギャルを見て眉間にシワを寄せているので、私だけが迷惑しているというワケでも無い。
この女は確か同じ学年であり、こんなのと一緒の高校というだけで嫌気がする。
絶対に相容れない存在だと、半ば無視する様に参考書を開く私。こんな女は無視無視。
と思っていたのだが、ある日のことである。
その日は学校からの帰りで、いつもの電車が珍しく混んでおり、ほぼ満員だった。
長椅子の席には座れたが、運悪くいつものギャルが私の正面で長椅子に座っており、席を移動しようにも満員なので動くに動けなかった。
ギャルは自分の手の爪を見ながら鼻歌を歌ってる。相変わらずのマナーの悪さにムカムカした私だったが、こんなのは相手にしない方が良い。今日は読みかけの小説を読んで気を紛らわせることにしよう。
すると、とある駅に電車が停まった際に、杖を突いたヨボヨボのお婆さんが入って来た。私は席を譲った方が良いのかな?と思ったけど、今日の私は体育の授業で持久走をやらされて疲れている。出来れば椅子に座って居たい気持ちもある。その内、待っていれば誰かが席を譲るだろう。
そう考えていたのだが、他の人も私と同じ考えなのか、誰も席を譲ろうとしない。
誰か譲ってあげなさいよと自分勝手な考えも浮かんできてしまう。
と、ここでようやく一人の人物がお婆さんに席を譲ろうとした。
「お婆ちゃん、ここ座んなよ♪」
「おや良いのかい?」
「良いって、良いって、こう見えて、あーしの足の筋肉凄いんだから♪」
そう言って、いつもの迷惑ギャルが立ち。代わりにお婆さんが席に座った。
ただそれだけのことなのだが、私は自分がとても醜いように思えてしまった。
いつも下に見ている女子が、私が言い訳ばかりして出来ないことをやってのけた。それがとても悔しくて堪らなかった。
なんて自分はちっぽけな人間なのだろうと自己嫌悪の気持ちまで湧いて来てしまう。
ただ席を譲っただけじゃないか、普段迷惑を掛けてるんだから、あれぐらいするべきでしょ?と自分で自分に言い聞かせても、そうする度に心のモヤモヤは大きくなってしまう。
一人で勝手に悩んで、何でこんな気持ちになってるんだろう?馬鹿だなぁ私って。
ガタンゴトンと揺れる車内で、吊革を握っているギャルは、今日もせわしそうにスマホを弄っていた。
どうも黒野だ。
「ある人に会いたいから、仲介して欲しいの」
そんな突飛なお願いをされた時には溜息が漏れた。
それはもはや相談じゃ無いし。そんなことまで私がしないといけないのか?やれやれだ。
持ちかけられてやってしまうからいけないんだろうな。実は私ってお人好しなのかもしれない。
というワケで会わせてみたんだが……
「私、東村 陽子って言います。突然なんだけど、私アナタのこと見下してたの。チャラチャラしてて、何も考えて無さそうで、人に迷惑を掛けるだけの存在だって思ってました」
「え、えーっ……あーし、突然ディスられてるんですけど」
瑛子君、コッチを見て助け舟を期待しないでくれたまえ。私だって彼女の目的は知らないんだから。
「でも、この間、電車でアナタがお婆さんに席を譲ってるのを見て、私の考えは独りよがりの陳腐なモノだったと分かったの。あの場の誰もがお婆さんに席を譲るつもりは無かった。それなのにアナタは容易く席を譲った。これは尊敬に値します」
「こ、今度は褒められた、褒められたよー」
だからこっちを見るなっての。勝手に褒められてくれ。
「今までバカにしてごめんなさい。心から謝ります」
深々と頭を下げる東村。どうやらギャルのした事が彼女の心境に変化をもたらしたらしい。
「か、顔を上げてよ。あーしが電車でマナー悪いのは本当だし。バカにされててもしょうがないって言うか」
「いえ、アナタは素晴らしい人です」
「え、えーっ」
東村は顔を上げてギャルの両手を固く握り、鼻息が荒かった。
どうやらギャルのギャップに、すっかりやられてしまったらしい。
これからこの二人がどうなるかなんて知らないが、私は問題は東村に缶コーヒーを要求して良いのか?悪いのか?ということである。
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