28話 失敗

前回までのあらすじ

真知子の彼氏自慢に疲れた私は、先に報酬の缶コーヒーを貰った。


というわけで、しっかり相談に乗りたいと思う。


「そ、相談しても宜しいでしょうか?」


オドオドした感じで麻衣と呼ばれている少女がそう聞いてくる。どうやら緊張しているらしいが、私相手に緊張なんてしなくていい。


「良いよ。ドンと来なさい。報酬も先に貰ってるしね。これで帰られたら私も寝つきが悪い。」


寝つきが悪いのはカフェイン中毒者の私にとっては毎度のことだが、そこには突っ込まないで頂きたい。


「心配しないで麻衣ちゃん。この御方は相談のプロだよ。」


麻衣ちゃんの隣に座っている米沢が、私のことをそう評したが、残念ながらプロではなくアマである。私に過度な期待を持つのはやめて欲しい。


「う、うん。私、中川 麻衣(なかがわ まい)って言います。それで相談というのが、私のしたことが良かったのかどうか?ってことなんです。」


良かったかどうか?か、つまり何かをやった後で、自分のしたことに対して自信が無くなったとか、そういうことだろうか?

中川さんはこう続けた。


「私、本当に地味な女で。今まで細々と生きてきました。自分でもそれで良いと思っていたんです。高校になったら紅子ちゃんみたいに気の合う友達も出来て、それなりに幸せだったんです。でも私恋をしたんです。相手は同じクラスの竹内君。彼はクラスでも一番のイケメンで、サッカー部の期待の新人、頭も良くて成績優秀、クラスの女子の憧れの的なんです。」


はぁ、学年に一人は居るよな。何でも出来てモテる奴。メスの良い子孫を残そうという本能がそうするのか、そこのところは専門家じゃ無いので何も言えないが、やっぱりスペックが高い男はモテる傾向にあるのは間違いないだろう。

ちなみに私はそんな男は趣味じゃない。


「私とじゃ釣り合わないって分かっていたんですけど、どうしてもこの気持ちを抑えられなくて、夏休みの間に髪を少し伸ばして、パーマをかけてみました。こんなことしたぐらいで彼に振り向いてもらえるかは分かりませんが、出来るだけのことはしたかったんです。」


それでオカッパ同盟を脱退したわけか、気の弱い中川さんは米沢には言い出せなかったんだな。


「それで夏休み明け、紅子ちゃんと喧嘩して仲直りした後、私は全てを紅子ちゃんに話して、それから竹内君に告白しました・・・結果は散々なモノでした。」


シュンとなる中川ちゃん。散々なモノということだからフラれたのだろうが、イチイチそれを聞くのも野暮というものだ。


「酷いんですよ竹内の奴‼紅白した麻衣ちゃんに向かって『自分の顔面偏差値を考えろ』なんてことを笑いながら言ったらしいんです‼最低だと思いませんか⁉」


米沢が顔を真っ赤にして怒ってる。友達の為にここまで怒れるなんて、どうやら完全に仲直りしているらしいな。それだけは良いことである。

しかし、もしそんなことを言ったとしたら竹内って奴は相当性格悪いな。どれだけスペックが高いか知らんが、私は性格の悪いイケメンより、性格の良い不細工を選ぶ、そっちの方が楽だしな。


「わ、私、告白して良かったんでしょうか?親友の紅子ちゃんまで裏切って、酷いフラれ方をして、ショックで夜も寝れなくて、こんなことになったのに告白して良かったんでしょうか?今更こんなことを考えても無駄なことを言っても何も変わらないことは分かってるんですが、今後の人生の為に知っておきたいんです。」


なるほどそういうことだったのか。中々、向上志向の高いお嬢さんだ。知っておきたいと言われても、相も変わらず私は自分の考えを言うだけである。


「私は良かったと思うよ。結果はどうあれ、やらない失敗より、やった失敗の方が為になるだろう?フラれたことで竹内って奴がクソ野郎ってことも分かったし、アンタの隣には米沢っていう良い奴も居る。自分のしたことに自信をもって、これからも精一杯に青春を謳歌したらどうだろうか?どうせ数年後にはアンタら二人で『あんなこともあったよね』とか言いながら酒でも飲んでるんじゃないか?」


私は実にいい加減なことを言っているのかもしれないが、若い内の失敗は人生において糧になる事は間違いない。失敗せずに大きくなった人間なんて居ないだろうしな。


「・・・いつか笑い話になるでしょうか?」


「なるさ。もしならなかったら私のところを訪ねに来て『缶コーヒー代を返せ‼』って怒鳴り散らしても一向にかまわないよ。」


「うふ、うふふ・・・分かりました。その時はそうします。」


本当に怒鳴り散らすつもりなのか分からないが、中川と米沢の二人は「ありがとうございました」と言って、ペコリとお辞儀をして帰って行った。

柄にもなく彼女らの行く末に輝かしい未来があることを願ってみるか?・・・いやいやキャラじゃ無いことはやめておこう。

さて、コーヒーが飲みたくなった。今度はがぶ飲みじゃなく、チビチビ歩き飲みでもしながら家路に着くとしようか。

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