46話 雑談
「この間、回転寿司の店員さんに告白されたんですが、お寿司食べたかったんで丁重にお断りさせて貰いました」
「あぁ、そうなんですか。相変わらずモテますね。変なのに」
どうも黒野だ。
MARYの店内、私は今日は客としてココに来て、カウンターでコーヒーを飲んでいるんだが、祥子さんが暇なのか、めっちゃ喋りかけて来る。
「変でしょうか?」
「変ですよ。だって業務中に話し掛けて来るなんて。しかも厨房の奴でしょ。わざわざ出張って来るのはおかしいですよ」
「それもそうですね。お寿司が滞るのは困ります。私もそう彼に言いましたし」
寿司寿司と本当に寿司が好きだなぁ、この人。将来は寿司屋さんと結婚するんだろうか?
「話変わるんですけど、この間、大学の中庭で白猫ちゃんを見掛けまして、夢中で遊んでたんですよ」
「あぁ、私の学校にも黒猫が居て、よく私に撫でられに来ますよ」
「奇遇ですね。しかも黒と白で鍵盤です」
まぁ、鍵盤だけども。だからどうした?という話である。祥子さんが楽しそうなので、そんな無粋なツッコミはしないが。
「それで白猫ちゃんと遊び過ぎて、大事な講義に出席するの忘れちゃってて大変でした」
「ダメじゃないですか」
天然にも程がある。この間ストーカーの件もあるし、もう少しだけしっかりした方が良いんじゃなかろうか?
“カンカラカーン”
玄関のベルが鳴ると、白衣を着た坊主専門の床屋【マルガリータ】の店主である如月さんが入って来た。
「あら?今日は客が居ないのね。レイコ―を一つお願い」
「かしこまりました」
マスターにアイスコーヒーを頼むと、如月さんは私の隣に座った。これだけ席が空いているのに私の隣に座るということは、何か私達に話があるということだろうか?
「アンタらさ、一回坊主にしてみないかい?」
「……えっ?」
私は言葉を失った。まさか女にまで坊主を迫ってくるとはな。コイツは恐れ入った。
私の答えは決まっているが。
「流石に嫌です。モジャモジャ頭にも愛着がありますし」
私がそう言うと、今度は祥子さんがこう言った。
「私も、今からの季節寒いですから、坊主にしたら風邪ひいちゃいます」
ん?その言い方だと、夏なら坊主でも良いみたいな言い方だな。まぁ深く突っ込むのはやめておこう。
「そっか、残念だな。お前達なら良い坊主になれると思ったんだが」
残念そうにしている如月さん。ここで私は冗談半分にこんな事を聞いてみた。
「そんなに女の坊主が見たいなら、自分ですればいいじゃないですか」
「あー、過去に三回ほど坊主になったんだが、自分の坊主を見ても何もときめかなくてな。何の意味も無いからもうやらない」
「……あっ、そうですか」
やったんかい。怖いなこの人。流石は金髪の貴公子の髪を躊躇もなく丸刈りにした女だ。
「レイコ―お待ちしました」
「おっ、ありがとうマスター。ついでに女性の丸刈り募集中の張り紙を張らせて貰っていいかい?」
「フフッ、それだけは勘弁してください」
笑顔で申し出を断るマスター。この笑顔の前では流石の如月さんも折れたのか、残念そうにアイスコーヒーをストローですすり始めた。
喫茶店で雑談に花を咲かせるのも悪くは無い。
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