45話 陰口
私の名前は
ちょっと陰気で、何をやらせても少し平均以下のスペックの女である。
「日陰さんはもう少し頑張った方が良いよね」
そんな言葉を聞く度に心がチクチクして、モヤモヤと色々考えてしまう。
友人と楽しくお喋りした後、遠くの方でその人と別の人が笑ってお喋りしているのを聞くと、自分の悪口を言っているんじゃないかと耳を澄ませてしまう。大概そういう場合は聞こえるか聞こえないかの微妙な所で、結果モヤモヤする。
きっと私の陰口を言っている時もあるのだろう。人が自分のことをどう言っているか?そんなことはその人の勝手で、私にはどうしようもないことだと分かっているのに、それでも気にしてしまう自分が駄目だなと思う。
勝手に被害妄想をこじらせて、その人への恨み辛みを募らせて、いつしか爆弾みたいに爆発させてしまうのだろうか?
でも陰口を言っているんじゃないか?と疑ってしまう人は、たいがい自分に一度は私に酷いことを言ってきた相手なのだから、募らせてしまうのも仕方ないことじゃ無いだろうか?
相手には些細な言動でも、私のハートを壊すには十分なことがる。その人は私のことなんて、ロクに考えていないのだろうけど、ハートが壊された私は休みの大半をウジウジと悩むことに使い切り、頭の中をグルグルと嫌なことが循環して行く。
いっそのこと泣けたらスッキリするのだろうけど、涙の蛇口を上手く開ける術を私は知らない。
自分が陰口を言う立場なら良かったのだろうか?と考える事もあるが、陰口を言われている立場からすれば、人の陰口を言おうなんて一ミリも考えられない。立場の弱い私だからこそ、陰口が如何に醜悪な行為なのだと理解することが出来ている。
上でのさばっている連中程気付かない。陰口を言っている自分が周りにどう映っているのか?出来れば大きな姿見の鏡で見せてやりたい。
……あぁ、駄目だ。悪い事ばかり考えてしまう。こんなことを本当は考えたくも無いのに、陰口のせいで自分まで黒く染まってしまうみたいで本当に嫌だ。
「おい、おーい。大丈夫か?」
ハッとして、目の前のモジャモジャ髪の少女に目を向ける私。そうだ、私は悩みを相談しに来たんだった。あまりに悪いことばかり考え過ぎて、周りが見えなくなっていた。
「だ、大丈夫。ちょっと疲れてるのかもしれない。話を聞いてくれてありがとう。スッキリしたわ」
解決できない悩みだと自分でも分かってる。ただ誰かに愚痴を言いたくなっただけなんだ。
缶コーヒーを置いて席を立とうとする私。だがモジャモジャ髪の少女は私を呼び止める。
「待ちなよ。少しは私の話も聞いてから行きなよ」
「……それもそうね。」
言うだけ言って、相手から何も答えを聞かないというのも、何しに相談に来たんだって話よね。
「アンタの陰口を言う人間は確かに居るのかもしれない。気のせいなんて言う気は無いよ。でも少なくとも私はアンタの陰口を言わないよ。私には陰口を言う趣味は無いし、アンタはネガティブだけど前向きに物事を対処しようとして好感が持てる。また、苦しくなったら愚痴を聞いてあげるから、その時は缶コーヒーは無しでいいよ。友達の愚痴を聞くのに報酬なんて要らないからな」
「友達?」
久しく聞かなくなった言葉だ。何となく雰囲気で友達になり、イチイチ友達なんて言葉を使う人は私の周りでもあまり居ないだろう。というか目の前の少女と私との接点は今まで無かったに等しいというのに。ちなみに言った彼女は顔を赤らめて恥ずかしそうにしている。
「友達で良いだろ?ダメなのか?」
「えっ……いや、じゃあよろしくお願いします。黒野さん」
「こちらこそ」
私と黒野さんは握手をした。
何だかとても頼もしい仲間が出来たみたいで、私の心はホッと和らいだ。
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