5話 容姿 後編
「うぅ、憂鬱だ」
黒野 豆子である。最近、放課後になるのが怖い。というのも風見先輩ときたら、事ある毎に「良い人は居ないだろうか?」と放課後になったら私の教室にほぼ毎日の様に通うようになってしまったのである。これはハッキリ言ってゆゆしき事態だ。
というかあの人、本当に何の勘違いをしているのだろう?私はマッチングの人ではない。ただ相談を聞いて自分なりのアドバイスをするだけなのだ。
大体自分にも彼氏が居ないのに、何が悲しくて他の人の彼氏を見つけねばならんのだ?そしてこの苦情は何処に言えばいいか?
そんなことを悩みながら、いつ来るともしれない風見先輩に怯えながら今日も自分の席に座っている次第だ。あの人が毎回缶コーヒーを買って来てくれるのもプレッシャーなんだよなぁ。
「あ、あの豆子さん」
「う、うわぁ―――――‼」
いきなり声を掛けられて椅子から崩れ落ちそうなほどビビった。見るとそこにはすっかり私に纏わり付くようになった佐藤の姿があった。しっかりと登校出来るようになり、最初はクラスメートにからかわれたりしたようだが、あまり無茶なイジメは無くなったらしい。どうやら面倒事はイジメていた奴らにとってノーサンキューだったようだ。ウチって一応進学校で、少しでも悪いことすると大学入試に響くしな。だったら最初からイジメなんてするなって感じだけど。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですか?じゃねぇよ。気配を消して喋り掛けてくるなって言っただろ?ふざけんじゃねぇよ」
「いやだから、教室に入る前に『失礼します』って大きな声で言ってますから、豆子さんが考え事をして気付いてないだけですよ」
「あぁ、分かったよ。そういうことにしておいてやる。で、何の用で来たんだよ。今日は手を叩いても無いぞ」
「それがさっき風見さんと廊下ですれ違いまして、今日は緊急で風紀委員の会議が入ったから来れないらしいです」
おぉ、それは吉報じゃないか。助かったー。これで美味しく缶コーヒーが飲めるってもんだぜ。
「その代わり、明日は来るらしいです」
ズコーッとこけそうになる私。明日の予約をされた様なものだ。風見先輩のせいで他の相談者が来れないというのは別にどうでも良いが。これ以上解決出来そうもない案件を頑張る気力は私には無い。そもそも畑違いだからな
「フッフフ、大分お困りの様ですね」
何笑ってやがるんだこの野郎。ムカついたので私は佐藤の頭をポカリと叩いた。
「痛っ、なにするんですか⁉」
「いやだってムカついたから。それで不敵に笑ったからには何かいい男でも見つけたのか?ムッツリオッパイ星人君」
「へ、変なあだ名を定着させようとするのはやめて下さい……実はですねカクカクシカジカ」
ほぉ、それは妙案かもしれないな。私は佐藤の見つけた男に一つの光明を見出した。
~次の日~
「ほ、本当か‼体目当てじゃない男が見つかったのか⁉」
「は、はい。だからそんなに大きな声出さないで。先生たち来ちゃうから」
「す、すまない。つい興奮してしまって」
どうも風見 紀子だ。今日も黒野君の居る二年二組の教室に来てみると、何と私の理想を叶える男子を見つけたかもしれないとのことだった。
正直、あまり期待していなかっただけに、嬉しいことこの上ない。
「早く紹介してくれ‼」
「……あのー、先輩ってそんなに肉食系女子でしたっけ?目が怖いですよ」
「いいから早く‼」
「分かりました、分かりました。おーい佐藤」
黒野さんが両手を二回叩くと、ガラガラと教室の前の引き戸が開いて、この間と同じ様に佐藤君、そしてもう一人茶髪のパーマをかけた如何にもチャラそうな男が入って来た。
「豆子さん連れてきました」
「ちわー」
言葉遣いもなっていない。こんにちはだろ、こんにちは。
まさかとは思うが、黒野さんが紹介しようとしてくれている男というのが、このチャラ男では無いだろうな?
黒野さんの方をチラリと見ると、フフッと黒野さんは不敵な笑みを浮かべた。
「これが最優良物件です。彼の名前は
な……なんだと⁉やはりこの男が私に紹介する男だと言うのか?こんなチャラそうな男が私の体を見ない筈が無い。悪い冗談だ。
そう思って西村というの男と向き合ってみた。ほら胸でも尻でも好きな部位をチラ見するがいい。
だがしかし、西村はジーッと私の顔だけを見ている。一度たりとも目線が下に降りることは無い。あんまりにも顔を見つめてくるので私が照れてしまいそうである。
この男、一体何を考えている?
とりあえず私は近づいてみることにした。近づけば私の体を見ること間違いなし。男とはそういう生き物である。
スタスタと西村に近づく私。拳二つ分ぐらいの距離まで近づいたのは近づきすぎたかもしれないが、ココまで来れば流石に胸を一度はチラ見する筈だ。
だがどうしたことだろう?この男、私の顔から一度たりとも目線を逸らさない。というか瞬き一つもしない。怖いぐらい私の顔を見つめている。
「き、貴様。何故私の体を見ない?」
別に見て欲しいわけでは無かったが、自分で言うのも何だが、これだけたわわに実ったオッパイを見ない男子なんて初めてだったので、私は戸惑いを隠せないのだ。
そして私の問いに、西村はこう答えた。
「自分、女の子は顔重視なので体とか興味無いっす。お姉さん美人ですね。ツリ目のポニーテール美人とか俺のドストライクっす♪良かったらラインのID交換して欲しいっす♪」
……ふん、笑止。私の連絡先を交換して欲しいだと?いくら私の体をジロジロ見ないからと言って、私が簡単に落ちるなどと思わないで欲しい。スマホのIDなんて交換しない。
「わ、私、スマホ持ってなくて、い、家の固定電話の番号なら教えられるけど。あっ、私の名前は風見 紀子って言います♪」
「お姉さん古風っすね♪そういうところも良いっす♪」
「あ、ありがとう♪」
私の恋が始まった予感♪
黒野 豆子だ。
このまま風見先輩の一言で締めても良かったのだけど、期待通りに事が進んだとはいえ、流石に一言ツッコミを入れないとな。じゃあ一言だけ。
体目当てじゃ無ければ誰でも良かったんかい‼
はい、今回はココまで。缶コーヒー飲みながら帰ります。
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