4話 容姿 前編

 私の名前は風見かざみ 紀子のりこ。高校三年生にして高校の風紀委員長をやらせてもらっている。左腕に巻かれた【風紀委員】と書かれた腕章が私の誇りである。

 そんな私だが実は悩みがあり、その悩みを解決すべく、放課後になって一学年下の二年二組の教室に入ることにした。なんでもそこは缶コーヒー一本で人の悩みを解決してくれるらしい。実績もあり、三年生も教師の方も御用達だとか、きっと素晴らしい人格を持った悩みを聞く達人が居るに違いない。

 私は期待に胸を膨らませて二年二組の戸をガラガラと開いた。


「たのもー‼」


「おうおう、えらく古風な感じに入って来たな」


 古風か確かに私は周りの友達から古風だの、ジジ臭いだの言われる。好きな物は緑茶で、家に帰れば時代劇チャンネルしか見ないので、自分でもその自覚は一応ある。

 教室には一人小柄でモジャモジャした髪型の女の子が席に座っており、どうやらこの子が相談の達人らしい。もっと2メートル越えの筋骨隆々な人を想像していたが、やはり多少のギャップはあるな。


「私の名前は風見 紀子。三年生だ。今日は君に悩みを打ち明けに来た」


「あー、やっぱりそうなんですね。一瞬、風紀委員長の風見先輩がこんな所に何の用かと思いましたよ。私の名前は黒野 豆子。人の相談に乗ってたら、不本意ですが、それなりに有名になってしまった女です」


「ふむ、黒野 豆子か」


 私は少し考えてしまう。略せば黒豆だなと。しかしながら私のことを怪訝そうな顔で豆子さんが見てくるので、おそらく黒豆と呼ばれるのではないかと警戒しているのでは無いだろうか?ゆえに私はその名で彼女を呼ぶことは無い。

 誰にでもコンプレックスというのモノは一つぐらい持っているだろう。私だって今日はそれが悩みでココに来たようなものだ。


「君の前の椅子に座っても良いかな?」


「はい、どうぞ」


 机を挟んで向かい合う私達。なるほどこれで相談する場が整ったというワケだ。


「それで風見先輩はどんな悩みを持ってるんですか?解決できるかは分かりませんが話してみて下さいよ」


「ふむ、実はね……」


私は少し間を空けてから、凛とした態度で悩みを打ち明けた。


「素敵な殿方と、素敵な恋愛をしたいのだ」


「……えっ?」


 何言いだしたんだこの人?と言わんばかりに目を丸くして私のことを見つめてくる黒野さん。確かに私の様な女が恋の悩みなんて似合わないことは重々承知だが、一応私だって年相応の女の子のワケで、恋愛をするのは自由だろう。


「せ、先輩は恋愛がしたいんですか?」


「あぁ、もちろん。ただし、節度を守った健全なお付き合いだ。手を繋ぐはオッケーだが、接吻から先は大人に成ってから」


 堅苦しい様だが風紀委員として、このぐらいのことを守るのは当然のことである。


「あ、あのですねぇ、一応私は相談は聞きますが、出会いの場をセッティングすることはしてないんですよ。それに先輩だったらそんなことしなくても男が寄ってくるでしょ?」


 この子の言う通り、私は結構モテる様で、月3回のペースで多種多彩な男子から告白を受けている。

 その理由として、私の体型が俗物的に言えば、やらしいからだろう。

 B89、W54、H85というボンキュッボンの体型の私は、男からいつも性的な目で見られている。それはココの男子生徒に限った話ではなく、先生や町を行き交う人々、ヨボヨボのお爺ちゃんまで様々である。中には上から下に嘗め回す様に見てくる輩もいるぐらいである。そういう輩には流石に鉄拳制裁をかましている、まぁ一種の正当防衛に該当するだろう。

 確かに男は寄ってくる、だがあまりにも私の理想とかけ離れた存在ばかりで、とても恋愛しようという気にはならないのである。


「とにかく私の胸やお尻をジロジロ見ない男を探している。体目当てじゃない男をだ。探してくれ」


「だからウチはそういうのやってないって、大体なんでそんなに付き合いたいんですか?」


「先日、恥ずかしながら初めて恋愛漫画というのを読ませて頂いたんだが、読了した後にキュンキュンしてしまって、私もこういう恋愛をしたいと思ったのだ」


おんぶとか壁ドンとか、メチャクチャされたい。


「……あーそういう感じなんですね。正直意外です。うーん、一応人畜無害な男を一人知ってますがね。会ってみますか?一つ年下ですが」


「ほ、本当か?ぜひ頼む」


願ったり叶ったりだ。人畜無害というのだから性欲も薄いのでは無いだろうか?


「分かりました。おーい佐藤」


 そう言いながら手をパンパンと叩く黒野さん。そんな風に呼ばれて佐藤君という子が出てくるのか疑問だ。まるで時代劇で忍者を呼ぶときみたいじゃないか。


“ガラガラガラ”


「呼びましたー」


来たよ。凄いな佐藤君。廊下の所でスタンバっていたということか?


「よし、よく来たな佐藤。じゃあ風見さん立って下さい。そして佐藤と向かい合って下さい」


 一瞬、私は何のことだか分からなかったが、すぐにそういうことかと黒野さんの意図を理解した。

 私は立って、状況が理解出来ていない佐藤君と向かい合った。するとすぐに結果は出た。


「どうですか?」


黒野さんの問いに私は結果だけを淡々に伝えることにした。


「胸を三回チラ見された、しかも鼻の下も通常時より三ミリほど少し伸びている様に見える。残念ながら失格だ」


「そうですかー。駄目ですねー。意外とムッツリだったかー佐藤ー」


「えっ?……これって何なんですか?何だか不当な扱いを受けている気がするんですが」


「もう良いよ、ムッツリオッパイ大好き星人は下がりたまえ」


 黒野さんにそう言われて、佐藤君は納得いかなそうな顔をしていたけど、ガラガラと扉を閉めた。この二人の関係性はイマイチ掴みかねるな。恋人では絶対無いと思うが。

 この後、結局のところ恋愛マッチングはやっていないと言われ、私は落胆した気持ちで帰ることになった。

 結局のところ私の様な固い女に見合う男は居ないということなのだろうか?



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