7話 短編①
黒野 豆子だ。相談は結構な頻度であるわけだが、どのケースも長々と喋るわけでは無い。時にはすぐに終わってしまうこともある。今日はそんな短い相談のケースを何個か紹介しよう。
ケース1 西村 昴(にしむら すばる)の場合
俺の名前は西村 昴。俺には最近になって年上の彼女が出来た。それも超ド級の美人である。これには高望みバカと俺を馬鹿にしていた友人たちも口を閉口させるばかりだ。だが、そんな幸せ絶頂の俺にも悩みがある。だから黒野に相談を持ち掛けることにした。
「彼女が可愛くて、離れているのが辛いんだが。どうすれば良い?」
「うるせー、惚気んな、缶コーヒー置いて帰れ」
ケース2 二年二組担任 金原 孝則(かねはら たかのり)
俺の名前は金原 孝則 36歳。一応歴史の教師をしているが、生徒達に教えることに何の意義も感じていないし、歴史も嫌いだ。
好きな物はパチンコ、競馬、競艇、競輪といったギャンブルの類である。
そんな俺だが自分のクラスの生徒が相談を受け持っているという噂を聞きつけ、様子見がてらに、ちょっとした相談を持ち掛けることにした。
「金原、お前何の相談があるんだよ?どうせロクでも無いヤツだろ?」
「オイオイ藪から棒に決めつけるな。それと金原先生と呼びなさい」
「いやいやお前自身がロクでも無いから、絶対ロクでも無い相談だろ」
やれやれまさかここまで自分が人望が無いとは思わなかった。この間、歴史の授業の時間をまるまる使って、パチンコの釘の見方を熱弁したのが悪かったのか?それとも授業中にテレビで競馬中継見てたのが悪かったのか?
……いや俺最低だな。どうして今日まで教育委員会は俺を野放しにしているのだろう?
まぁ、そんなことは置いておいて、切実な俺の願いを聞いてもらうとするか。
「今度のG1で派手に賭けたいから、一万円貸してくれ」
「今の発言をスマホに録音したぞ。バラされたくなかったら帰れ」
「ぐぬぬ、覚えてろ。あとその録音消してください、お願いします」
その後、俺は生徒に土下座した。
ケース3 名も無き黒猫の場合
私は黒猫である。貴様たちに名乗る名などない。
産まれてこの方、野良で生きて来た私だが、少し猫生に疲れてしまった。だから人間でもいいから私の悩みを聞いて欲しくて、とある高校に侵入した。
放課後の時間帯を狙えば、高校も人気も少なく比較的簡単に目的地まで到着することが出来た。
扉が閉まっているので、ここは中の人間に開けてもらうとするか。
「ニャー、ニャ―」
私が鳴くと中から物音がして、暫くして扉がガラガラと開いた。
「ん?黒猫?迷い込んだのか?」
「ニャー」
この人間だ。この頭がモジャモジャ髪の人間が様々な人々の悩みを聞いているという相談のプロフェッショナルだ。さて私の悩みも聞いて貰うか。
「……抱っこしたいな。」
うん?・・・コラッ、勝手に私を抱きかかえるな。
「シャアアアアアアアアア‼」
「暴れんなよ。良いじゃねえか少しぐらい」
良くない‼私の悩みを聞けぇ‼
「ほらっ、ほらっ、撫でるの上手なんだぜ私♪」
そ、そんな頭とか顎とか撫でまわすニャー。別に気持ち良くなんてニャいんだからねぇ。
「にゃあああ♪」
撫でられて気持ち良くなった私は、自分の悩みなんて忘れてしまった。
また撫でられにやって来るニャ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます