71話 待機
初めまして、私の名前は
風紀委員の一年生の女子です。小柄で赤面症の気がある私ですが、ある人に憧れて風紀委員に入りました。そのある人というのが風紀委員長の風見 紀子先輩です。
「そこの君、前髪が三センチほど校則より長い様だが、そこに直りたまえ。私が今から切り落としてやろう」
「げぇ、風見 紀子」
校則を破った男が驚いて逃げようとする時、すでに風見先輩は愛用の銀色のハサミで、彼の前髪を叩き切っていました。流石は疾風のカマイタチの異名は伊達ではありません。
「ぐはっ‼」
前髪を斬られたショックで倒れ込む男。そんな男を尻目に風見先輩はフーッと溜息をついてアンニュイな表情を見せました。
「風見先輩お疲れ様です。何処か元気が無い様に見えますが、体調がすぐれないんですか?」
「いやいや小森君。気にしないでくれ。すぐに元気になるから」
そう言って力無く笑う風見先輩。ただの委員会の後輩の私がこれ以上は聞けませんが、早く風見先輩には元気になって欲しいものです。
黒野だ。只今面倒なことに巻き込まれている。誰か助けてくれ。
「シクシク……」
目の前の机に突っ伏して女々しく泣いているのは、泣く子も黙る風紀委員長の風見 紀子先輩だと誰が気付くだろうか?いや、およそ誰も気づかないだろう。
厳格で品行方正な彼女が何でこんな状況に陥っているかといえば、一言で言えば男関係である。
「昴キュンが修学旅行に行っちゃうよ……寂しいよぉ」
知らんがな。そんなことで泣きに来ないで欲しい。こんなシーンを誰かに見られでもしたら、私に変な噂が立つ可能性だってある。あの風紀委員長を泣かせるモジャモジャ頭とか新聞部の奴が見出しに作りそうだ。
そうなる前に帰って頂かないとな。
「風見先輩、いい加減泣き止んで下さいよ。いつも一緒に居るんだから、たまには距離を取るのも良いでしょうよ」
「君は簡単に言ってくれるな。遠距離恋愛になって昴キュンが他の女と付き合いたくなったらどうするんだ?」
ここぞとばかりに顔を上げて、キリっと言い放つ風見先輩だが、全然カッコ良く見えないよ。彼氏をキュン付けをとりあえずやめようか。
「遠距離って言っても三泊四日ですから大丈夫。佐藤と一緒に楽しく京都を回ってますよ」
「あの佐藤って奴も怪しいよな。もしかしてBLか?私は男に彼氏を取られるのか?」
とんでもないことを言い始めたな。恋人が出来てココまで人が変わるなら、やはり私は恋人なんて一切必要無い。こんな風になるぐらいならコーヒー10リットルぐらい飲んで死んでやるわ。
「あっ、そうだ。修学旅行の風紀が乱れるといけないからと理由を付けて、私も修学旅行に同行するというのはどうだろう?そうすれば昴キュンと一緒に京都観光できるぞ♪うふふふ♪」
「却下です。大人しく風見先輩は学校の風紀を守ってて下さい」
ただでさえ人探しならぬ、狐探しをしないといけないのに、これ以上厄介ごとを増やしてなるものか。
この後、西村が風見先輩を迎えに来て事なきを得たが、どっと疲れて糖分不足になった私は、久しぶりに甘いコーヒーをがぶ飲みした。
修学旅行の前途は多難である。
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