23話 坊主 中編

黒野 豆子だよ。

突然だがウチの高校にはイケメン四天王と呼ばれるベタな四人組が居るらしい。

らしいというのは、私も最近になってそれを知ったからである。

その内の一人はボランティアが好きなイケメンこと柊 悟(ひいらぎ さとる)君であり、彼は別名【奉仕の黒王子】と呼ばれているらしい。そんなことも知らずにイケメン君と呼んでいたが、まぁ許してくれ。

どうしてそんな話をしたかというと、私は今、喫茶【Mary】にてバイト中なのだが、ウチの高校のイケメン四天王の一人が来客しており、カウンターで悩ましげにコーヒーをすすっている。金髪の長髪をなびかせているイケメンの名は明野 三日月(あけの みかづき)という名前で、別名【ムーンライトの貴公子】である。

柊君とは違った感じのキラキラした眩しいイケメンだが、私というモノは人の外見にあまり興味がないので、キュンとしたりドキドキしたりすることは一切無い。

しかし、こんなイケメンがどうしてこんなマニアックな店に来たのだろう?スタバとか行けばキャーキャー言われるだろうに。


「美味しかったわ。お代置いておくよ。」


また如月さんがテーブルに千円置いて出て行く。また50円私が募金しにコンビニまで行かないといけないのか、非常に面倒臭い。

と、私はここで見逃さなかったのだが、明野君が去り際の如月さんをウットリとした目で見ていた。これはもしかして?

明野君は如月さんが帰ると、フーッと深い溜息を吐く。これはほぼ90%当たり確定では無いだろうか?だがウエイターの私が聞くのも野暮だしな。

するとここで天然クールの祥子さんが明野君にぶち込んで行く。


「お客さん、如月さんのこと好きなんですか?」


おいおい、そんなストレートに聞く奴がいるかい?天然クールとはいえ、そんなのお客様に聞いたらダメでしょ?

あんまりな展開に親であるマスターを見てみたが、私の視線に気づくと、不自然に目を逸らしてコップを拭き始めた。この人、とことん娘には甘い様だ。


「えっ、その・・・はい。」


顔を赤らめながら明野君は肯定する。やはりそうだよな。しかしながらイケメン四天王の一人が、丸刈り専門の床屋の店主に恋をするとは、これは新聞部に売ったら高い値段で買ってくれるのでは無いだろうか?と、邪な気持ち去れ。


「恋の悩みなら、そこの黒野さんに相談してみてはいかがでしょう?私も黒野さんのおかげで回転寿司が食べれるようになったんですよ。」


「か、回転寿司?」


おい、私にパスを回すな。あと回転寿司だけ言っても伝わらないから。嫌いだった回転寿司が私のおかげで食べれるようになったと勘違いされるぞ。

祥子さんはぎこちなく右目で私にウィンクを飛ばした。やれやれ、これは相談を受けないといけない流れか。


「とりあえず話だけなら聞くけど、あんまり役に立てるか分からないよ。」


「君ってウチの高校の子だよね?しかも同じ学年の。」


おぉ、こんな陰キャを覚えてくれていたとはな。別に嬉しくないけど。


「確か名前は・・・黒豆さん。」


「テメー‼アツアツのコーヒーぶちまけられたいのか‼」


興奮してコーヒーに手を伸ばそうとした私をマスターが羽交い絞めにして止め、コーヒーも祥子さんが遠い所に置いてしまった。何だこの親子の阿吽の呼吸は?この仲良し親子め‼

五分後、私の怒りのボルテージが何とか下がり、人の話をまともに聞けるようになった。


「ご、ごめんね。人の名前間違えるなんて最低だ。」


「はぁはぁ、別に間違える分には良いんだけどよ。その名前だけはやめてくれ。反射的に殺したくなるからさ。」


「こ、心得たよ。」


ふぅ、余計なやり取りのせいで疲れたので、相談は次の話でしてもらうことにしよう。

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