17話 回転

黒野 豆子だ。

どうやら亀田 祥子さんはストーカーに遭っているらしいのだが、どういうことだろうか?


「何でストーカーされていると思うの?」


「それが、実は私、回転寿司が大好きでして。」


ん?ストーカー被害の話なのに回転寿司が出てきたぞ?ここまででは全くもって意味が分からんが、早々に話の腰を折るとテンポが悪くなる。ここは祥子さんの話をしっかりと聞こうじゃないか。


「クルクル回るお皿のお寿司を見ていると幸せな気分になれるんです。あぁ、もちろん食べるのも好きですよ。見ているだけではお腹は膨れませんから。」


「は、はぁ。」


あれ?祥子さんはクールそうに見えて意外と天然系のキャラなのかな?回転すしの話とかどうでも良いから、早く本題に入って欲しいんだが。


「それで週に一度だけ回転寿司に行くのが私のルーティーンでして、そこで困ったことになったんです。」


「困った事と言うと?」


私がそう聞くと、祥子さんは衝撃の事実を私に教えてくれた。


「私の好きなお寿司の皿が一向に回って来ないんです。」


「へっ?」


何を言っているんだろう?この人は?


「私が食べたいと思って狙っているお寿司がことごとく前の席の人に取られてしまうんです。」


「うーん、偶然では?」


「私もそう思ったんですけど、どうやら違うらしくて。毎回同じ人が私の狙っている皿を取っちゃうのを父さんに話したところ、それは狙われているよ。と言われてしまって。」


「えっ、毎回同じ人なの?」


「はい、小太りでボサボサ頭の眼鏡を掛けた、チェックの柄のスーツを着た、ふくよかな男性の方です。」


人は見掛けで判断したらいけないと言うが、メチャクチャ怪しいなソイツ。一瞬ストーカーじゃないんじゃない?と疑ってしまったが、そんな奴が好きな皿を取っていくと聞くと怪しさ倍増である。


「ネタを注文した場合どうなる?」


「それも取られてしまいます。一度『それ私のです』って言ってみたんですが、『すいません、間違えました』と言ってパクパク食べられてしまいました。」


はい来たストーカー。それはもう確定だわ。人の注文した皿を取って食うとかサイコパスかよ。すいませんじゃねぇよ、食うのやめろよ。


「私、困ってるんです。このままではカッパ巻きとか、かんぴょう巻きとか、あまり好きじゃ無いモノしか食べれません。なんとかしてくれませんか?」


困っているとこそこなんだ。冗談かと思ったけど祥子さんの目は真剣そのもので、どうやら彼女にとって回転寿司で好きな物を食べれないことは余程の問題らしい。


「すいません、ウチの子ちょっとズレてまして。」


ペコリと頭を下げるマスター。大丈夫だよ、変人の扱いなら慣れているから。ウチの学校は変な奴が過半数を占めているから。

好きな寿司を食べれなくて困っているなら、そっちの方なら対処も出来るそうだけどな。そっちが問題だとは私は思わないけど。


「その人の前の席に座って寿司を食べることは出来ないの?」


「それが不思議なことに、その人はいつも私の後に来て、いつも前の席に座るんです・・・あぁ、これが彼がストーカーと言われる所以ですかね?」


そう、それがストーカーと言われる所以だよ。今気が付いたみたいな顔しているけど、もう少し早く気付けると良かったね。

にしても、こんな鈍くて天然な子がストーカーに遭っていると思うと流石に危ないよな。ボサボサ頭のストーカーがいつ何かを仕掛けてくるか分かったもんじゃないしな。


「分かった。私が一つ良い作戦を思いついたから、今度、寿司屋に行く時になったら呼んで。」


「今日、行きたいです。お寿司の話をしていたらお寿司が食べたくなってしまって。」


涎を垂らす祥子さん。どんだけお寿司好きなんだよ。

ということで本日作戦を決行することになったので、助っ人を呼んでおこうっと。

えぇっと、佐藤の番号は何処に入れたっけかな?



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