16話 金欠

どうも黒野 豆子だ。

まだ八月にもなっていないということで、夏休みは継続中だが、一切特に何の出来事も無く、今日も【Mary】来てコーヒーをすすっている。

毎日喫茶店に行って、コーヒーを飲むだけの休み。華の女子高生らしからぬ夏休みの過ごし方だと思う人も居るかもしれないが、他所は他所ウチはウチ。むしろ休みなのだから疲れるような事は一切せずに、二学期からの勉学に励む為のエネルギーを貯めておくべきなのだ。まぁ夏休みの宿題に全く手を付けていない私が勉学など言う資格があるのかは知らないが。


そんなことより一大事がある。いよいよもって金が無い。祖母ちゃんにせびっても一円もくれやしないし、虎の子の10円玉貯金も底をついた。コイツはよろしくない現状である。こうなってしまえば唯一の楽しみである【Mary】でのコーヒーブレイクも楽しむことが出来ないでは無いか。その上、一日中、あの炎天下の家に居ることは死を意味する。これは本格的になんとかしないとな。

しかし、ウンウン唸ったところで自分のことになると何も思いつかない。一瞬バイトするなんて浅はかな考えが浮かんだが、私の様な不愛想で根暗な女をバイトで雇う所も中々無いだろう。店や客のニーズに全然合っていないと自負しているよ。

となると手詰まりか、こうなったら自宅でミイラになるしか無い。


「お客さん。ちょっと話を聞いて貰っても良いですか?」


「うわっ‼ビックリしたぁ‼」


突然マスターから声を掛けられた。こんなこと初めてである。


「驚かせてすいません。実は相談に乗ってもらいたいことがあって。」


「そ、相談?」


こんな人生の酸いも甘いも嚙み分けた人生の達人みたいな雰囲気を醸し出しているマスターから、私の様なしがない女子高生に一体何の相談があるというのだろうか?金なら貸せないよ、だって無いんだから。


「そう相談。お客さん大分前に大学生の男の人の相談を受けてたでしょ。それを見込んで相談があるんです。」


「いやぁ、見込み違いだと思うけどなぁ。」


まさか【Mary】来てまで相談を持ち掛けられるとは思わなかった。怖い怖い、私って行く先々で相談される運命になっているのだろうか?いやそれは気疲れするよ。


「相談と言っても、相談があるのはお客さんの右隣に座っている娘なんですが。」


右隣り?そう言われて右の方を向くと、そこには白いワンピースを着た黒い長髪の女の人が座っていた。


「うわっ‼」


隣に人が座っていたことに気が付いていなかった私は、軽くまた悲鳴を上げてしまった。驚かされるのに耐性が無いので勘弁して欲しい。


「どうもこんにちは。」


「あ、あぁ、どうも。」


向こうがペコリと挨拶してきたので、こちらも反射的に頭を下げて挨拶を返す。

この人は夏休みの初めからココで働いているのを見掛ける綺麗なひとじゃないか、もしかしてこの人が相談者なのだろうか?


「実はこの子、私の娘でして。この子に困ったことが起こっているのです。」


「あぁ、マスターの娘さんなんだね。」


と言いつつも、そうなんじゃないかと思っていた。マスターに敬語を使わないし、制服らしい制服も着ていないので、こうなると身内と考えるのが妥当であろう。


「初めまして、私は亀田 祥子(かめだ しょうこ)と申します。好きな飲み物はマンゴージュースです。」


「どうも黒野 豆子です。好きな飲み物はコーヒーです。」


何故か自己紹介で好きな飲み物を言い合ってしまった。マンゴージュースって、甘ったるしい物が好きなんだな。

娘さんが亀田ということは、マスターの名字も亀田か。別に下の名前を知りたいとは思わないが、今度からは親しみを込めて心の中ではマスター亀田と呼ぶことにしよう。


「それで相談って?」


「それがですね。どうも私ストーカーに遭ってるみたいでして。」


おおっと気になるワードが出てきたが、今日のところはココまで、次回に続く。


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