32話 勝負
「黒野さん、最近一年生の女の二人組が、黒野さんに会いに来てるらしいじゃないですか。」
黒野だよ。放課後の教室、久しぶりに登場の佐藤がそんなことを私に言ってきた。
「女の二人組?・・・あぁ、米沢と麻衣ちゃんか。あぁ、最近仲良くなってな。たまに教室で話してるぞ。」
私がそう言うと、はぁと佐藤は溜息をついた。目の前で溜息つかれるとテンション下がるからやめてもらっていいか?
「一応言っておきますけど、僕が黒野さんの一番弟子ですからね。そこのところをその二人にも言っておいて下さい。」
「はぁ?」
何を言ってるんだコイツ?弟子と言われても、私は弟子を取った覚えがない。
「あのな、何が弟子だよ。何の弟子だよ。アホみたいなこと言ってんじゃねぇ。」
「いや、黒野さんは僕の人生の師匠です。これからもご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いいたします。」
「指導もご鞭撻もしてねぇよ。」
私と佐藤がこんな会話をしていると、タイミング悪く、話の二人がガラガラと扉を開けて入って来た。
「黒野さーん、今日も来ちゃいました♪」
「こ、こんにちは。」
無論、来たのは米沢と麻衣ちゃんだが、本当にタイミングが悪いので今日は帰ってくれ無いだろうか?
「あっ‼君達だね‼最近、黒野さんに付き纏ってる女子二人っていうのは‼」
鼻息荒く佐藤が二人を睨みつける。先輩の男子が後輩の女子を睨みつけるなんて絵面的に不味いって。
「ん?アナタ誰ですか?麻衣ちゃん知ってる?」
「い、いや、全然知らないよ。紅子ちゃん。」
案の定、困惑する二人。何だか私まで恥ずかしくなってきたから、早急にやめて欲しいんだが。
「君達、黒野さんの一番弟子の僕を知らないなんてモグリだね。やれやれ。」
何がやれやれだ。さっきから言ってるけど弟子なんて取った覚え無いんだよ。
だがここで米沢と麻衣ちゃんの二人が反応しなければ、佐藤だって変なことは言わなくなるだろう。
と、希望的観測をすると、いつも悪い方向に物事が進むものである。
「黒野さんの一番弟子ですって⁉そんなの聞いてません‼黒野さんの一番弟子は私達です‼」
今度は米沢がそんな風なことを言い出して、私は頭を抱えた。麻衣ちゃんだけは私にいたわりの表情を向けてくれたのが、せめてもの救いである。
「はぁ⁉君図々しいぞ‼黒野さんとの出会いは僕の方が先なんだから、必然的に僕が黒野さんの一番弟子に決まってるだろ⁉」
「図々しいのはどっちですか‼アナタみたいな失礼な人が黒野さんの一番弟子なんて、黒野さんの評判が落ちます‼即刻弟子を名乗るのをやめて下さい‼」
「な、なにぉ‼」
「なんですか‼」
二人の目線がぶつかり、バチバチとベタなエフェクトが見え始めた。放課後の教室で喧嘩をするのはやめて欲しい。缶コーヒーが不味くなる。
「黒野さん‼僕が一番弟子ですよね⁉」
「いや、私達が一番弟子ですよね⁉」
私の方を見て、承認を求めて来るバカ二人。二人揃って承認欲求の塊かよ。
「もう、お前等うるさいよ。弟子なんて取った覚えはない。即刻この教室から出て行け。」
冷たく私がそう言い放つと、二人はシュンとしてしまい。何だか少し可愛く見えてしまった。これは私がどうかしてしまったかもしれない。
「こ、こうなったら、次に来た黒野さんの相談者の相談に乗って、どちらが相談者に納得してもらえるかで勝負しよう。」
佐藤がとんでもない勝負を持ち掛けた。私の了承とか得た方が良いとは考えないのだろうか?
「良いですねそれ、相談力で勝負するのが、黒野さんの弟子を名乗るのに一番重要なスキルですからね。相談バトルで白黒つけましょう。」
相談力?相談バトル?何を言ってるんだコイツ等?相談で遊ぶな。早く家に帰れ。ゴーホーム、ゴーホーム。
だがすっかりここで相談者を待つ流れになり、佐藤と米沢が睨み合いをしているせいで空気が悪い。
もういい、麻衣ちゃんとガールズトークでもしてるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます