第19話 第二の勇者
32歳の冴えないサラリーマンであった彼は、異世界に転生した際に何故か12歳の美少女に生まれ変わっていた。
異世界のお風呂で胸当ての必要性を知ったり、スク水姿の女性に体を洗ってもらったり、みんなでフルーツ牛乳飲んだりして、最後に自分だけの武器を贈ってもらった櫂たちは、今度こそ諸国連合の盟主に
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例えるならばそこは、人が神を迎える祭壇であった。
諸国同盟の盟主国である都市国家オウキ。
巨大な
内匠櫂とミカゲ・アゲハの二人は今、謁見の間にて最高権力者――盟主への拝謁を目前に控えていた。
最高権力者が下々の者においそれと姿を見せないのは珍しくもないが、階段状になった壇の見上げるほどの高さや、断崖絶壁のような神樹の幹を背にした玉座の配置などは、そこに座する者を神格化する意図が込められていそうだ。
(……盟主と呼ばれる割には、随分と神聖視されているのですね。もしかして社会主義国家の独裁者の肩書が「書記」だったりするのと同じパターンですかね?)
床に
ふと隣を向くと、そこには緊張の色を浮かべたミカゲの姿がある。
「ミカゲさん、緊張してますね?」
「あ、当たり前でしょ。盟主様に直接拝謁するのよ? と言うか、カイも少しは緊張したらどうなのよ? 仮にも帝国にとっては敵国の支配者なのよ?」
「私はそもそも帝国臣民じゃありませんし、諸国連合の生まれでもない。だからまぁ気楽なものですよ」
もちろん櫂も櫂なりに緊張はしており、自分達を挟むように立つ無数の衛士達から圧をかけられてはいたが、それよりも一国の支配者に拝謁する事の好奇心と興奮が上回っていた。
(ああ、異世界に転生して良かった! そもそも私をここに連れてきたのはその盟主様の意向だったそうですし、扱いも悪くなかったように思います)
朝早くに登城した櫂とミカゲ、そして櫂の護衛のエルナ・ヴォルフは丁重に城の奥へと招かれ、謁見の準備が整うまでは城の一室でお茶や菓子を振る舞われた。
特に櫂は稀に見る美貌と髪の色から侍女や官吏に質問責めに遭い、その距離感が櫂の緊張を知らず和らげていたのかもしれない。
ちなみに拝謁を許されたのは櫂とミカゲだけで、エルナは別室で待機となったが、エルナにとってはここは敵国の本拠地であり、登城を許された事自体が厚遇と言っても過言ではない。
それ故に湯宮の時とは異なり、彼女は一時的にとは言え櫂のもとを離れる事に難色を示さなかった。
(……カイ、何かあれば私の名を呼んで。必ず助けに行くから)
エルナは離れる際にそう誓ってくれたが、二人ともにその約束が果たされない事を祈るばかりだった。
その時、回想を断ち切るように鐘の音が広間に響き渡った。
櫂とミカゲは深々と
壇の上に控えていた老齢の官吏が一歩前へと踏み出した。
彼は深い皺が刻み込まれた顔の一部が鱗のように硬質化した、
「同胞たちよ、
百獣を従えし
衛士達の槍が床を叩き、何者かが床を鳴らす音を櫂は聞いた。
「――一同、面を上げよ」
老齢の官吏の声が頭上から降り注ぎ、櫂とミカゲはゆっくりと顔を上げた。
姿形はハッキリしないが。御簾の奥で玉座に座する者の存在が確認できる。
「
「はっ、恐悦至極に存じます!」
老齢の官吏の言葉に、ミカゲは
「そして外つ国の者よ、光栄に思うが良い。我らが盟主は直々に言の葉を交わす栄誉を授けると仰られた。謹んで受けるがいい」
「――ありがたき幸せと存じます」
仰々しく頭を下げながらも、櫂の胸は緊張と不安で高鳴った。姿は見せないものの、臣下を通さずに話をすると言う事が、どれだけ特別な待遇なのかは容易に想像がつく。
「――――名は何と申す、
初めて聴いた盟主の声は、疑いようもなく若い娘のそれであった。
「内匠櫂と申します。盟主様」
「タクミ・カイ――ふむ、珍しい響きよな。どこで生を授かった?」
「それはその……申し訳ありませんが、私は自分がこの世界の何処で生を受け、今に至るのかを全く覚えていないのです」
櫂の言葉は真意ではないが、嘘でもない。
彼(女)の生い立ちの記憶は全て転生前の世界のものなのだから。
「――ほう? ほうほう、なるほどなるほど!
問いをはぐらかしたにも拘らず、盟主は何故か得心が言ったとばかりに、声を弾ませる。
「これは傑作よ、善い――汝に我が姿を拝謁する栄誉を授ける。我と存分に語り合おうぞ、西の勇者」
自ら御簾を上げ、彼女は櫂の前にその姿を現した。
背丈は櫂よりも高いが、その顔立ちはまだ十代の少女にしか見えない。
背中へと滝のように流れる
美しく可憐ではあるが、その身にまとう威厳と風格は少女のそれではない。
金と朱で織り上げられた豪華な
(まさかのキツネっ娘ですか! アメイジング!! これはミカゲさんと甲乙付けがたいですね!)
オタクの眼で盟主の容姿を称える櫂。
直接口にすると不敬罪に問われそうなので、心の中でだけ叫んでおく。
「我が名はラキ。
口の端を吊り上げて微笑む盟主ラキ。櫂は彼女の名乗りに一礼するが、自分を見下すその目には僅かな反感を覚えた。
「では早速ですがお尋ね申し上げます。何故、私をこの地に招いたのですか?」
櫂は自らの意思で諸国同盟に足を運んだが、旅の案内人であったミカゲはそもそも、櫂を誘拐してまで連行するつもりであったらしい。
顔も素性も知らないただの小娘を、大国の主が何故呼び寄せたのか。その答えを知る事は櫂の旅の目的のひとつであった。
「――なんとこわい眼をしておる。忌々しい“
櫂が目を合わせた瞬間、ラキは露骨に顔を背け、目元を仮面で覆い隠してしまう。
(……少しイラッとしたのが顔に出てしまいましたかね? でも眼が恐いだなんて言われたのは初めてです)
軽くショックを受けた櫂は、自分からもラキの首から下に視線を移した。
「失礼しました。我が身の不遜、どうかお許しあれ」
「……いや、こればかりは汝のせいではなかろう。気にせず面を上げよ――ふむ、何か聞きたそうな顔をしているな」
「ええ、貴方様にお尋ねしたい事は山のように御座います」
「許す。汝は何を知りたい?」
「そうですね――では『勇者』とは何でしょうか? そして私は――その『勇者』なのでしょうか?」
櫂は自分を勇者などと自認した事も自負した事もないが、ミカゲは彼(女)をずっと『勇者』だと考えていた。
では彼女に自分を連れて来る命令を下したラキは、その答えを知っている筈だ。
「
「救済……装置?」
櫂が
「――我が連合の導師たちが星見にて算測したのだ。そう遠くない内にこの大地を強大なる
そして『勇者』はその神災に立ち向かい、人を救済する為に“
ラキは大仰に手を広げ、謳うように未来の危機を告げる。
そして――その危機に立ち向かうのが『勇者』の存在意義だとして。
「なるほど……良いですね、実にファンタジーじみて来ました。
しかし盟主様、星見の結果はともかく、『勇者』についてはどうやってそれを知ったのですか?」
「ちょ、ちょっとカイ! 盟主様になんて口の利き方をしてるのよ!」
「大丈夫ですよミカゲさん――どうやら、私と彼女は立場の違いさえあれ、同じ存在であるようですから」
そう言って櫂は顔を上げて立ち上がる。確証はないが確信はあった。
その瞬間、衛士からかけられていた圧は鋭く険しいものに変わっていたが、彼らの足をラキの手が押し留めた。
「ほうほうほう、汝は実に頭が回る。善い――
「そんなに褒められると照れますが、こう言うのはまぁお約束ですしね?
質問の答えは――盟主様、貴女も『勇者』なのですね?」
櫂の指摘に、ラキは仮面をかぶったまま「然り」と応じる。
「救済の装置ゆえに己が目的と同胞を見誤る事はない。
この
見事だ、『第七の勇者』カイ・タクミよ。」
『勇者』は一人だけではない――それ自体は驚きもしなかったが、櫂は自分に告げられた名称に疑問を抱く。
「第七――え、じゃあまさか勇者は他にもたくさんいるのですか?」
「然り。だが詳しい素性と数は我にも分からん」
「……それなのに、私が七番目と分かったのは何故ですか?」
「なに、簡単なことよ。我が汝の眼を視て、
論より証拠と、ラキは虚空に細い指を走らせた。
すると何も存在しなかった空間に一枚の巻物が出現し、自動で
「これは魔法ですか?」
「否、これなるは我が
ラキの言葉に合わせて、巻物は櫂の前に紙面を広げてみせる。
そこには統一言語でこう記されていた――
名前:内匠櫂
性別:女性
年齢:12歳
クラス:第七の勇者
属性:人鬼
Strength (力): 18
Agility (敏捷): 30
Vitality (体力): 5
Intelligence (叡智): 12
Wisdom (賢さ): 20
Charisma (魅力): 測定不能
Luck (運): 5
保有技能:加速/斬命/影離/■■
契約神能:■■■■
「――これは私のステータスですね! でも一部伏せ字になってますが?」
どういうことなのかと櫂はラキに尋ねるが、彼女は首を横に振った。
「我が万象の紀録は大地の血脈を通して、
……あとステータスとはなんぞ?」
「あ、私の前世と言うか遠い記憶の中にある
数値の上では櫂は敏捷と魅力に優れ、一方で体力と運は非常に低い。
その偏りはしかし、今の自分に対するセルフイメージとも合致していた。
「保有技能とは“
これまで無数のオークと対峙した時、無意識に繰り出していた必殺の一撃。
それが紀録に記された“斬命”なのだろうと、櫂は納得した。
「しかし“
「構わぬ。契約神能とは『勇者』に授けられる“
我の万象の紀録は、紀録の神の権能を借り受けている――で、汝は何の神と契約しておるのだ?」
ラキはそう問いかけるが、そもそもが伏せ字になっており、心当たりも全くないものだから櫂は首を横に振るしかない。
「自分でも知りたいところなんですけどね?
ちなみに盟主様はどうやってそれを知ったのですか? このステータス……ああいえ紀録に書いてあったのですか?」
「――うむ、そうよ。ただし、こればかりは自覚しない事には始まらぬ。
つまるところ、汝はまだ己が借り受けた神能を
すると巻物は自動で広げた紙面を巻き取り、霞のように消えてしまった。
「さて、我の温情はここまでだ。これで満足したか?」
「まだまだ足りませんが、仕方ありませんね。自分の事をある程度知れただけでも御の字でしょう。
だから最後にこれだけは聞いておくことにします。私をここに呼んだのは同じ勇者として共に世界の危機に立ち向かう為ですか?
それとも――」
「左様、汝の考える通りである」
ラキが腕を振るい、煌びやかな刺繍を施した袖が舞う。
それと同時に櫂たちを無数の衛兵が取り囲んだ。
「第七の勇者よ、これは宣戦布告だ。“
つまり我ら『勇者』は――相争う運命なのだ」
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名前:神狐ラキニアトス・イヅナ
性別:女性
年齢:15歳
クラス:第二の勇者
属性:君主
Strength (力): 10
Agility (敏捷): 12
Vitality (体力): 8
Intelligence (知力): 30
Wisdom (賢さ): 30
Charisma (魅力): 16
Luck (運): 14
保有技能:四方六道/神狐の血脈/盟約/天変智威
契約神能:万象の紀録
追記:神格値E⁉ わ、悪いのは私じゃないし! 後は任せましたよ!
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