第47話 転生勇者




 内匠櫂たくみ かい。12歳。

 32歳の冴えないサラリーマンであった彼は、異世界に転生した際に何故か12歳の美少女に生まれ変わっていた。

 遂に第三の勇者を無力化する事に成功する櫂。しかしそこに蒼い鎧に身を固めた一人の戦乙女ワルキュリアが現れ、櫂は一転して窮地に立たされてしまうのだった……


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「カイから離れなさい!」


 その声は櫂のはるか頭上から聞こえてきた。

 うつ伏せのままアメルシアと名乗った戦乙女に背中を踏みつけられていた櫂は真上を向けず、その姿を見る事は叶わなかったが、見えなくとも声だけで分かる。

 ミカゲ・アゲハはみどりの鱗を持つ飛竜と共に、頭上からアメルシアを攻めた。一方、アメルシアは真上から降下する飛竜に気付いても眉一つ動かさず、櫂を踏みつけた足を離す事もない。


「――来なさい、“大神の軍馬スレイプニル”」


 アメルシアが名を呼んだ瞬間、空から何かが降ってきたかと思うと、たちまち飛竜を追い抜いてアメルシアの隣に着地する。それは長身の彼女よりも遥かに大きな暗褐色の馬であった。


「―――きゃぁっ⁉」


 その馬を目撃した途端、飛竜は急降下を中止して大きく軌道を逸らしてしまう。

 突然の急旋回で背中から振り落とされそうになり、ミカゲは思わず悲鳴を挙げるが、飛竜は背中に乗せた少女の安否を気遣う素振りも見せないまま急浮上し、そのまま滞空して距離を離してしまうのだった。


「まさか……怯えているの?」


 信じられないとばかりにミカゲは飛竜に問いかける。

 飛竜はその問いに応じる素振りは見せなかったが、眼下の馬には絶対に近付こうとしない事からその内心は容易にうかがい知れた。

 武装した兵隊や荒々しいオークを前にしても怯みもしなかった飛竜が今、空を駆け下りてきた巨馬の存在に恐れおののいていたのである。

 巨馬は視線だけで飛竜を牽制しながら、音もなくアメルシアへと身を寄せた。

 体高は2メートル以上はあるだろう。その巨躯だけでも他の生物には十分な威圧になるだろうが、全身にまとう神々しさは飛竜すら竦ませるほどに強大であった。

 何より目を惹くのは八本の太く長い脚。この巨馬が野山をかける獣ではなく、人間よりも遥かに上位の存在である事はもはや疑うまでもない。


(確かに今、スレイプニルと言いましたね……まさか北欧神話の神獣がここにいる?)


 櫂が息苦しさに耐えながら首を横に向けると、確かに大地を踏みつける八本の脚が確認できた。

 あまりの巨躯ゆえに顔を拝むことは叶わなかったが、伝説の中にしか存在しないと思われていた神獣がすぐそばに居る事実を受けて、櫂は自身の危機だと言うのに胸を躍らせてしまう。


「飛竜でしたか。人に従うところを見るとフウカの眷属のようですね。

 しかし良い判断です、無益な殺生はわたくしの望むところではありません」


 飛竜が仕掛けて来ない事を確信すると、アメルシアはスレイプニルの背を撫で、座り込んだレイに声をかける。


「さぁ帰りましょうレイ。貴女は立派に役目を果たしました」


「は、はい……おかあさま……?」


 それは櫂に向けて放った冷たく威圧的な声とは異なる、慈しみを込めた声色ではあったが応じるレイの声は硬く、アメルシアに対して恐縮しているようにも聞こえた。


「大王様も貴女の帰還を心待ちにしていますよ。――さぁ、わたくしと共に大王様のもとに帰りましょう」


 アメルシアが「大王」の名を口にすると、レイの顔は安堵と歓喜にほころんでいく。先程とは打って変わりレイは二つ返事で立ち上がると、脇目もふらずにスレイプニルへと駆け寄った。

 その姿にアメルシアは悲しそうに目を伏せるが、それも一瞬のこと。優しくレイを迎え入れ、彼女をスレイプニルの背にまたがせる。


「――ではここでお別れです、勇者カイ」


 レイをスレイプニルに乗せると、ようやくアメルシアは櫂を踏みつけていた足を退けた。

 もっともアメルシアはその際に櫂の脇腹を爪先で蹴りつけたものだから、櫂は突然の痛みと苦しみに悶え、すぐには身を起こせなくなる。


「――が! 全く……ひどい……です……ね」


 櫂が痛みに耐えながら言葉を絞り出す間に、アメルシアは悠々とスレイプニルに跨り、剣を持たない方の手に手綱を握り込んだ。


「命を奪わないだけ感謝するのですね。あなたはまだ弱い。それでは他の勇者はおろか来る“神災”に抗う事すら叶いませんよ」


「……ええ、たった今痛感しました。でも明日の事は誰にも分かりませんよね?」


 アメルシアの言葉は蔑みではなく、ただ冷酷に事実を告げただけだ。

 それを理解していながらも、櫂は何時かその評価を覆してみせるとアメルシアに言い放つ。


「――よろしい、ではその時を楽しみにしていますよ」


 この時、櫂は初めてアメルシアの顔に意識を向けた。

 輝くような銀色の髪と新雪のように白い肌、透き通るような美貌に精気を宿らせていたのは内に宿した意志の熱と、氷蒼アイスブルーの瞳の輝きだった。口元にはわずかに笑みを称えており、己が示した意地に気を良くしたのかと櫂は解釈した。


「最後に一つだけ聞かせてくれますか、戦乙女さん?」


「アメルシアで構いませんよ、勇者カイ」


「――ではアメルシア、北の地にはあなた以外の戦乙女やその神馬は存在しているのですか?」


「えっと……“大神の軍馬スレイプニル“はただ一頭だけですが、戦乙女はその……血筋と言う意味ではわたくし以外にも存在すると思います」


「ほ、本当ですか! ならば私はもう一度貴女に会いに行きます。その時は他の戦乙女を私に紹介してくださいね!」


「は、はぁ……」


 再戦を誓うでも汚名返上を告げるでもなく、割と不純な好奇心から再会を望む櫂に戸惑いながらも、アメルシアは首を縦に振る。


「――ふふっ、おかしな子。まるであの人マスターみたい」


 そしてこらえきれずにアメルシアは笑みをこぼしてしまう。その様子は確かに17歳の乙女のそれであった。

 彼女が手綱を緩めて脇を足で押すと、スレイプニルは前脚を上げていななき二人の乙女を乗せて駆け出した。八本の脚はやがて足場の存在しない空へと駆け上がり、あっと言う間に空の彼方へと駆け抜けていった。

 その後ろ姿を見送りながら、櫂は自分がひどく晴れやかな気分でいる事に気付く。

 改めて周囲を見渡せば闘技場は文字通り穴だらけにされ、まだ実際に確認してはいないが、他の場所でも同程度の被害や犠牲が出たに違いない。

 銀の戦乙女を生み出して帝都を襲撃した第三の勇者レイも、その救援に来たアメルシアも「五湖大王ごこだいおう」なる者の名を挙げて、この銀鷲ぎんしゅう帝国への組織的な侵攻を仄めかしていた。

 彼女達が奪ったもの、これから奪おうとするもの。

 それに対する帝国側の報復を考えれば、流石に笑ってはいられない。

 これ以上にひどい破壊と対立の果てにどれだけの命が奪われ、どれだけの血が流される事になるのだろう。それなのに自分は――


「……まぁ、私は元々人間だったようですしね? 今更善人ぶっても仕方ないでしょう」


 圧倒的な力と威容を見せつけた戦乙女アメルシア、彼女を乗せて空を駆ける神馬スレイプニル、そしてまだ見ぬ北の大地――この戦いを通じて出会った存在や世界に、櫂はどうしようもなく心惹かれていた。

 そしてそれは、彼(女)が見失っていた新たな目標に巡り合った瞬間でもあった。


「さて大丈夫ですかエルナ、凍傷になっていませんよね?」


 アメルシア達が去ったあと、エルナの両の手足を固めていた氷や周囲を囲んでいた氷壁は跡形もなく溶け去っており、櫂は真っ先にエルナの安否を確認しようとした。


「ん、大丈夫だと思う。ちょっと冷たいだけ」


 そう言うとエルナは櫂の頬に冷えた手を当てたものだから、その冷たさに櫂は思わず声を挙げてしまう。


「ちょ、ちょっと冷たいですよエルナ! 離してください」


「やだ、カイのほっぺあったかいし」


 互いの無事を確かめ合うように触れ合い、ふざけ合う二人。

 そこに飛竜と共にミカゲも駆けつけてきた。


「二人とも大丈夫⁉ ああもう――無事で良かった!」


 感極まって抱きついてきたミカゲに、エルナは嬉しそうに破顔し、櫂は思わぬ接触に顔を赤くしてしまう。

 いくら体は12歳の美少女でも、櫂の心は未だ32歳のオタク青年。十代前半の少女に抱きつかれて平静を保てるほど、彼(女)は女性慣れしていないのだから。


「ミ、ミカゲさん苦しいです……」


 気恥ずかしさ半分、本音半分の言葉を櫂が洩らすとミカゲは我に返り、慌てて身を離した。


「ご、ごめん――ってカイ! あなた今度は何をしでかしたのよ?

 どうやってあの不気味な連中を従えて……いえ、そもそもあの馬と鎧の女は何者? 

 飛竜が脅えるなんて相当に高位の存在としか……あぁもう説明しなさいカイ!」


 安心した反動なのか、立て続けに起きた予想外の事態に混乱するミカゲは櫂に説明を求めるが……


「私だって分からない事だらけなんです! 特にあの戦乙女さんとスレイプニルについて、誰でも良いから話を聞きたいくらいなんですから」


 予想外の事態に直面し続けたのは櫂も同じであり、ミカゲの質問には何一つ答えられなかったのは言うまでもない。


「――カイ、極北の地に行きたいの?」


 櫂の言葉から彼(女)の願望を推察したのか、エルナが不意に尋ねかけてきた。


「――ええ、でも今すぐにではありません。少なくとも帝都がこんな有様ですし、恐らくは国家規模の武力衝突に発展するでしょうから、ある程度落ち着くまでは帝都に留まりますよ」


「北に向かう事は否定はしないのね……アタシは表立って動けないから、何かあればまた呼びなさい。もちろん協力した分の報酬は後で支払ってもらうけどね?」


 それが冗談である事を祈りながら、櫂はエルナの反応を伺う。

 彼女はいつものように自分の判断や主張を口にはせず、「うん、分かった」とだけ頷いた。

 ただし彼女の左右で色の異なる瞳には、何かを期待するような光が宿っていた。


「カイ様、その時は是非わたくしも!」


 更には何時の間にか駆けつけたマリアリガルも名乗りを上げるが、


「いやいや、マリアは先ず自分の立場を考えてください? と言うかあなたと一緒だと絶対に面倒くさい事になりますし……」


「まぁ、もしかして反抗期ですか? でも……それはお姉ちゃんへの愛情の裏返しと解釈できますわね? カイ様、わたくしもっと面倒くさくなりますから、これからも遠慮なく反抗してくださいませね!」


「えぇ……」


 この公女はもう手遅れだ。

 その認識を更に強めつつ、許可も得ずに抱きついてきたマリアリガルを引き剥がそうとする櫂だったが、今の彼(女)の力ではとても敵いそうにない。


「――かしましいとは正にこの事だな。

 それよりロイ、どうも五湖連合がきな臭い。ガキどもが心配なら一度カルダモに戻るか……っておい、聞いているのか?」


「――はッ! あ、あぁそうだな。俺も一度戻ろうかと思っていたんだ、うん」


(こいつ、あの女に見惚れてやがったな……)


 すっかり腑抜けてしまった相棒に呆れつつも、ハディンはその翠の瞳を無数の少女たちに囲まれている櫂に向ける。


(……カイとか言ったが、あれもロイと同じ『勇者』の一人なのだな。

 あの公女様や死人のような襲撃者といい、あれだけ強大な力を有しているなら、帝国だけでなく他の国や勢力もこのまま黙ってはいるまい。

 考えたくはないが、これから恐らく大陸各地で『勇者』をめぐる争いが起こるだろう。その時僕は――)


 これ見よがしに腕を組み、不自然に櫂から目を逸らすロイを横目に、ハディンは予測した未来に想いを馳せた。


こいつロイを――護れるのだろうか)


 ハディンが抱いていた不安はしかし、彼自身が予測したよりもずっと早く現実のものとなる。この翌日、被害の規模に言葉を失う銀鷲帝国の為政者たちの下に、それを上回る一報が届けられたのである。


 帝国北部――三公国と呼ばれる属国のひとつ翠馬すいば公国。

 その公都たる城塞都市エウスヴェルデが陥落し、大公を含む国家の最重要人物たちが虜囚となったと、一人の公国騎士が帝国の国境警備隊に伝えたのである。

 満身創痍のその騎士は寝台の上で、その命を燃やし尽くすかのように彼が見知った全ての情報を警備隊に報告した。

 曰く、公都エウスヴェルデを襲撃したのは、五湖連合と呼ばれる極北の地の小国や諸氏族の軍事同盟であること。

 曰く、ただの相互不可侵的な同盟関係でしかなかった五湖連合を率いていたは、五湖大王を自称する男であること。

 曰く、城塞都市の防備をただの一撃で粉砕したのは、空を駆ける神馬を駆る銀髪の戦乙女であったこと。

 報告を終えたあと、その使命を果たした騎士は息を引き取った。

 しかしその死を悼み、忠義に敬意を払う前に帝国は突然の軍事侵攻に備える必要があった。

 その先陣を切ったのは五公家と呼ばれる帝国屈指の大貴族たちであり、翠馬公国と領地を隣接する帝国北部の大貴族ランバード公爵と、帝国中西部に広大な領地を持つ大貴族ヴィフシュタイン公爵の二人。

 彼らは配下の騎士団を動員し、直ちに国境沿いの要塞に防衛線を築く。そしてそこに他の大貴族や帝国軍本隊を呼び寄せた後、一気に翠馬公国の奪還を図る――筈であった。


 更なる凶報が東から届けられる、その直前までは。


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「我らが無敵の勇士たち、獣姓を賜りし英雄、共に頭を垂れよ。

 百獣を従えし王虎おうこ、天異地災より神樹を護りし鎧亀がいき、大河にして豊穣たる清竜せいりゅう、魔道蛮理を滅焼せし炎翼えんよく――四方六道を従えし央神おうしん、我らが神盟の主がここに至高の姿を現す。

 天地繋ぎ万物育む主の在位、無窮の繁栄と共に讃たたえよ――」


 帝国から見て東に位置する大国、八萬はちまん諸国連合。

 その盟主国オウキに建つ天宮てんのみやの謁見の間で、衛士達の槍が床を鳴らすと、ひざまずく完全武装の武者や導師たちを睥睨へいげいするように、彼らの主が姿を現した。

 御簾みすの奥ではなく直に姿を現した事から、眼下に居並ぶ者達の身分の高さが窺い知れる。彼らは全て各都市国家の藩主かその代行、そして二十四の眷獣にちなんだ姓を賜る英雄や名士である。


おもてを上げよ、我が勇士たち。諸君らの日頃の忠義に報い、この神狐しんこラキニアトス・イヅナの尊顔を拝謁する栄誉を授ける」


 尊大な物言いで無数の英雄諸侯を労うのは、まだ十代前半の少女である。

 背中へと滝のように流れる白金しろがねの髪。真一門に切りそろえられた前髪の下には、切れ長の大きな目と真っ赤な瞳が見える。

 金と朱で織り上げられたほうをまとい、高下駄のようなサンダルで硬い床を打ち据えながら、腰の後ろで髪と同じ色の大きな尾を揺らし、冠で飾り立てた頭部からは狐を思わせる耳を生やしている。

 この少女の名は八萬諸国連合の盟主、神狐ラキニアトス・イヅナ。

 本来は同格である各都市国家の藩主たちの同盟を、神樹の現身うつしみとして取りまとめる存在である事から、諸国連合に於いて彼女に並ぶ者は存在しなかった。


「――時は満ちた。先日のアーチへの侵攻に見る加護無き地の蛮人どもによる目に余る暴虐と無礼、もはや酌量の余地はない。

 我が愛しき民草の営みを、百獣の祝福を受けし地を、これ以上穢させぬ為に央神たる我が命じる。我が勇士たちよ、剣による征伐を! 法による調伏を果たせ!」


 冷厳たる命を受けて最初に立ち上がったのはなんと、虎の頭を持ち常人の倍以上の巨躯を鎧で覆った獣人であった。

 彼の名はオウキ。盟主国の名の由来となったにして御柱みはしらの遣い――その第五柱・虎頭ことう将軍オウキと言う。


「応よイヅナの末裔、この俺が力を貸そう――行くぞ雛鳥ども、勝ちたくばこの俺に全力で付いて来い!」


 その生涯で十を超える大戦を勝ち抜いた名将、大陸に並ぶものなしと称えられた賢者、傲岸不遜を体現した猛者、その誰もが「雛鳥」と見下されてもそれを屈辱とすら感じない。彼らの目の前に在る虎の獣人はそれほどまでに高位の存在であり、伝説の体現でもあったのだから。

 そして八萬諸国連合軍・永代えいたい大将軍の肩書を持つオウキを戦場に立たせると言う事、それは即ち諸国連合にとっての総力戦を意味していた。


「感謝するオウキよ。大典に記されし武勇、存分に発揮するが良い。

 聞いたか勇士たちよ、これより永代大将軍と共にを開始せよ! 手始めに許し難い無礼を働いた赤狼せきろうめの城を落とし、大戦おおいくさの狼煙を上げるが良い!」


 帝都イーグレ襲撃から二日後、八萬諸国連合は銀鷲帝国ならびにその属国たる赤狼せきろう公国に対し宣戦を布告。

 かくて銀鷲帝国は建国以来二度目となる存亡の危機を迎える事となった。

 後に大陸の歴史書に記される”神災”の、これが始まりである――――


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 その頃――大陸西部、銀鷲帝国最西端の港湾都市マードア。

 五公家の一人、シャイハスティン公爵が居を構えるその都市は、海洋帯シーベルトと呼ばれる無数の諸島と勢力を繋ぐ海の玄関口でもある。

 帝都から遠く離れている事もあり、独立独歩の気概が強いマードアの住民たちは北と東で同時に起きた戦乱の口火を知る由もなく、日々海からもたらされる恵みと騒動に追われていた。

 その広大な港の一画に接岸したのは海洋帯の一島、クロボーン島の商人が所有する小型の帆船。船員たちが積み荷を降ろす作業に追われるなか、船首からマードアの街並みを眺める一人の少女の姿があった。

 遠くからでも目を惹く桃色の髪を肩口で切りそろえ、他の船員とは異なり白を基調とした長袖の上着と足首まで隠れる長いスカートで、顔以外の素肌を晒していない事から客人的な扱いを受けている事が分かる。


「いやーーーー爽快っスねぇ、この絵に描いた様な港町! 例えるならシドニー? いやお前、海外なんて行った事ないやんけー!」


 一人でボケとツッコミを行うと、彼女の周囲を囲む数人の船員がやんややんやとはやし立てるが、彼らは少女が口にした地名やその意味を知らない。ただ目の前に立つ少女の機嫌を損ねないための反応でしかないが、少女にしても彼らの理解や共感などは求めていなかった。


「やっと帝国に着いたけれど、センパイのいる帝都まではここから陸路で数日かかるんスよね? じれったいけど、これも営業活動の一環。先ずはこの町でもボクのファンを増やすっス!」


 そう言って桃色の髪の少女が見上げた先には、この都市を修める大貴族の居城がある。


「せっかく異世界転生&TSしたのだし、チートな“超能スキル”を活用して女の子としてのチヤホヤを楽しまないと損ってもんス。それに今度こそ負けませんからね――?」


 まだ見ぬ知人に向けた言葉を口にしたあと、少女は背後に居並ぶ船員たちに声をかけた。


「みんなー♪ ボクの名前を言ってみてー♪」


「「「超々カワイイ☆カツミちゃんでーす!!」」」


「そうでーす♪ ボクは超々カワイイ斯波勝己しば かつみちゃんでーす☆ みんなはボクのこと好きー?」


「「「YEAH! カツミちゃん最高ーーーー!!!!」」」


 訓練された下僕オタクたちの声援を浴び、第六の勇者は見事なウインクを飛ばす。

 斯波勝己しば かつみ。13歳。

 かつて28歳の冴えないサラリーマンであった彼は、異世界に転生した際に13歳の美少女に生まれ変わったのである。



 名前:斯波勝己

 性別:女性

 年齢:13歳

 クラス:第六の勇者

 属性:戦士

 Strength (力): 5

 Agility (敏捷):5

 Vitality (体力): 29

 Intelligence (叡智):5

 Wisdom (賢さ): 28

 Charisma (魅力): 20+10

 Luck (運): 18

 保有技能:転生体/媚声/扇動/心神異覚

 契約神能:共観きょうかんの舌


 追記:

 人類保全機構はここに特例に基づく救済措置を敢行します。

 六体の『勇者』による御柱の遣い第七十二柱、■■の■神の排除と現文明の防衛。

 これに異存なければ承認を。


 では――後は任せましたよ、内匠櫂さん?




 To be continued――『転生勇者の傾国無双』Season2





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