ハリーさんと常さん

佐古さんと別れた後、ハリーさんの待つ常さんの店に俺は行った。


カランカランー


「いらっしゃい。飴」


そう言って、店の奥に常さんは俺を連れて行く。


「ハリ坊、飴がきたぞ。コーヒー持ってくるわ」


そう言って、常さんは俺を置いて向こうに行ってしまった。


「ハリーさん、佐古さんと話をしていて遅くなりました」


俺の言葉にハリーさんは、驚いた顔を向けた。


「佐古、なっちゃんに会いにきてたのか?」


「はい」


そう言うとハリーさんは、優しそうに微笑みながら「会わせてやりたいな。二人」と言った。


「俺も同じ気持ちです」


俺の言葉に、ハリーさんはうんうんと頷いて笑った。


「飴からも言ってやってくれよ。なっちゃんは、ずいぶんと飴に救われたみたいだからよ」


「わかってます」


俺がそう言った後、常さんが、コーヒーを持ってきてくれる。


「窓、少し開けとくな」


向こうに行こうとする常さんをハリーさんは引き留める。


「常も、座って聞いてくれ」


「わかった。さっきお客さんが帰って、closeにしといたから座らせてもらうよ」


そう言って、常さんは座った。


「飴から、動画を少し見たんだがよ。美麗は、ラムネを飲まされたかもしれない。とにかく今は、なっちゃんが調べてくれるから。それまで、美麗をみんなで守ってやらなきゃならないと思ってる」


ハリーさんは、そう言いながら俺と常さんを交互に見つめた。


「宗方道理からですよね?」


俺の言葉に、ハリーさんは頷きながら話す。


「ああ、宗方やつは一度狙った獲物は、破滅するまで追いこむって話だ。美麗が、狙った獲物かどうか調べようがないけどな。守らなくちゃならない。その為に、飴の力が必要だ。別れさせたくせに都合のいい事を言ってすまない」


ハリーさんは、そう言って俺に頭を下げる。


「頭あげてくださいよ。大丈夫です。俺も、美麗を守りたいですから」


そう言った俺に、ハリーさんは頭をあげて笑った。


「飴、ありがとな」


常さんは、それを見ながら、煙草に火をつけた。


「美麗は、飴を失った弱さにつけこまれたんだな。やっぱり、美麗はぶっ壊れるタイプだと思ってたよ」


常さんは煙草の煙を吐き出しながらそう言った。その言葉に、ハリーさんは、頭を抱えている。


「別れさせなきゃ、よかったんだよな。俺の責任だ」


「違います。俺が、うまく別れられなかっただけですから…」


俺は、ハリーさんを見つめて言った。


「とにかく、美麗の休日は寺に送ってもらって飴の所に行かす。構わないか?」


「はい、構いませんよ」


ハリーさんは、俺の言葉を聞いてから、煙草に火をつけた。


「ハリ坊、やっぱり美麗に佐古は重すぎる。やるからには、全力で守れっていっただろうがよ」


常さんは、ハリーさんの肩を叩いていた。


「そうだな。まさか、こっちの動きをわかっていたとは気づかなかった」


そう言って、二人とも同時に煙草の火を灰皿に押し当てて消した。


「ハリーさん、俺は、この先どんな事があっても美麗を守りますよ。その為に俺は、金森を抱いてる。俺はね!俺の人生を、美麗の為に使う。そう決めたから…」


「飴を支えてくれてるやつがちゃんといるんだな。じゃなきゃ、飴だって無傷じゃいられないだろ?」


ハリーさんは、そう言って笑った。


「そうですね。俺には、支えてくれてる人がいます。だから、俺は、美麗を守れる」


「だったら、お願いするよ。美麗を守ってくれ。俺達も守る。後な、飴。なっちゃんが、動いてくれるって事はあっちもこっちを知るって事だ。接触してくるかもしれない。もし、飴が何か言われたら俺にちゃんと話すって約束してくれないか?」


ハリーさんは、コーヒーを飲んで、俺を見つめていた。


「わかりました。向こうが、接触してきたらちゃんとハリーさんに話しますよ」


もう一度、俺の目を見つめながら、ハリーさんは煙草に火をつけた。


「なっちゃんと飴は、よく似てる。自分が恋人でいれないから、あんな風にしたんだろ?まるで、美麗は飴に抱いて欲しいと頼んでいた。見ているものには、それが自分に向けられてるようだったな。美麗は、飴に抱かれたくなったらあんな顔をするんだな」


ハリーさんは、笑いながら煙草の煙を吐き出していた。


「何だか、恥ずかしいですよ。俺しか知らない美麗を、たくさんの人に見せるなんて。でも、ハリーさんの言った通りです。恋人として美麗といれない抱けないのなら、あの美麗が俺はどうしても欲しいんですよ」


「なっちゃんも、佐古にそうしたから会わなくても我慢できたんだろうな」


ハリーさんは、納得したように頷きながら灰皿に煙草を押し当てていた。


「そうだと思いますよ。あの顔を見ていたら、俺は、美麗に愛されてるのを感じられます」


「そうか、そうか!なら、飴が思うやり方で、美麗に色気をつけてやってくれ」


「わかりました。じゃあ、俺は、そろそろ」


俺は、そう言ってコーヒーを飲んで立ち上がった。


「仕事か?頑張れよ」


「飴、またこいよ。俺もハリ坊も飴の家族なんだからよ」


「わかってます。失礼します」


俺は、頭を下げて二人と別れて仕事に向かった。

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