手紙【夏生さん】

私は、ハリーさんが病室を出た後、すぐに佐古十龍(さことおりゅう)からの手紙を開いていた。


[夏生へ]


俺は、夏生を愛してる。


あの日、大ヒットを飛ばした事を報告したかったのに会ってはくれなかった。


それが、悲しくて辛くて堪らなかった。


夏生が、用意してくれる女の子を抱く度に、俺の胸は罪悪感で押し潰されそうだった。


愛してるから、あのキスをされたと思っている。


夏生は、違ったのか?


飴ともキスをしたんだな。


俺にするキスと同じだったか?


そうなら、とても悲しい。


夏生がこの世を去る、その瞬間まで傍にいたい。


夏生を感じ、愛したい。


傍にいたい。


どうか、俺の願いを


一度だけでも、叶えてくれはしないたろうか?


【十龍】



私は、十龍の手紙を握りしめて泣いていた。


プルルル


『もしもし』


「飴君か?」


『はい』


「十龍に、会いたい」


『明日でも、いいでしょうか?』


「いつでも、構わない」


『明日、伺います』


「ありがとう」


私は、飴君との電話を切った。


さあ、どうしましょうかね


私は、紙を取り出した。


どうすれば、いいかな。


コンコンー


病室の扉を叩く音がして返事をする。


「はい」


「夏生まだ生きてたか?」


「ああ、西城じゃないか」


「久しぶりだな」


そう言って、西城は私に近づいてきた。


「何の用だ?」


「夏生の所のやつが、ラムネの事を嗅ぎ回ってるって聞いてな」


「ああ、調べている」


そう言うと西城は、テーブルの上にお見舞いを置いた。


「Sは、宗方の弟だってわかったんだろ?夏生、林檎向いてやるよ」


「ありがとう」


私は引き出しから包丁を取り出して西城に渡した。

西城は、林檎を向いてくれながら話し出す。


界隈テリトリーを荒らされてるようだな。お互いに…」


「そうだな」


私は、引き出しから紙皿を取り出して机に置いた。


「お客さんも、ラムネ中毒になってるかな?」


西城は、私の問いかけに剥いた林檎を紙皿に起きながら話す。


「さあな。だけど、売上げは確実におちてるよ。夏生のところもだろ?」


「ああ、そうなんだよ」


「ほら、林檎」


西城は、林檎を剥き終わると私に差し出してきた。


「ありがとう」


「夏生、えらくガリガリになっちまったな」


西城は、どうしてこうなったんだって顔をしながら私を見つめていた。


「まあ、それは仕方ないよ。病気だからさ」


「病気か…林檎食べろ」


「いただくよ」


私の細い手に、西城はつまようじを刺した林檎をくれる。


「飴君に会ったんだってね」


「ああ、金森のためだった」


「下調べか」


「ああ、そうだ」


私は、そう言って林檎を食べる。


「金森が、宗方達と繋がってるってわかってる?」


「知らなかったけどな。どうやら、そうらしい」


「やはり、繋がってるか」


「夏生、自分の店の子はしっかり守れよ」


「どういう意味だ?」


「イチゴがとにかくヤバイって話だ。後、キャンディが出回り始めてる」


「キャンディか…」


「お手頃で、こっちは、違法じゃないらしいんだ。おそらく、確実に足がつかない代物だ」


そう言いながら、西城は林檎を食べていた。


「キャンディが、広まればさらにヤバくなるって事だな」


「ああ、まだ完成していないのか、数件ってとこだけどよ。店の子が一人やられちまったんだよ」


シャリシャリと音を立てて林檎を食べながら西城は話す。


「お店の子は、キャンディを喰わせられたのか?」


私の言葉に西城の目に怒りが宿るのがわかる。


「ああ、神楽法は人じゃねーって覚えている方がいいぞ。あいつは、ただマウスを探してるだけだ。どうやら、その子も神楽に声をかけられたらしい」


「どこまでも、卑劣なやつだな」


「ああ、それが、神楽だ。宗方よりも恐ろしいのは神楽の方だよ」


「やはり、そうか…」


西城は、おでこに手を当てる。


「神楽の作品は、検査にも引っ掛からない。だから、あらゆる人間が喰ってる。この世界もだけどよ。夏生、そろそろ秩序を元に戻さないか?」


「ああ、そうだな」


「夏生が、生きてる間にやりとげたい。ここからは、手を組まないか」


「ああ、わかった」


「とにかく夏生は、自分の店を守れ」


「こっちも、こっちで守るからよ。また、三日後にくるわ」


「わかった」


「それまで、夏生、死ぬなよ」


「大丈夫だ」


そう言って、西城は出ていった。


はあー。


私は、自分の命をかけてやるべき事をしよう。


ハリーさんからの報告を待ち、観月からの報告を待つ。


十龍に会い、飴君の人生を守る手伝いをする。


私は、少しだけベッドに横になり目を閉じた。


きっとこの先の飴君の人生は、幸せなものになる。


いや、飴君を愛する者がするんだよ。







*この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません*

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