秘密の打ち合わせ【ハリーさんと夏生さん】

俺は、飴を追い出した。


「なっちゃん、もう神楽と宗方の居場所は調べがついてんだろ?」


飴が、部屋をでて廊下にいない事を再度確認してから俺はなっちゃんに尋ねた。


「とっくについてますよ。ハリーさん」


なっちゃんは、そう言って、スマホで誰かにメッセージを送ってる。


観月みづきを呼びました。宗方と神楽の居場所を知ってると思います」


その言葉に、俺はなっちゃんと向かい合った。


「なっちゃん、これからやる事は飴には内緒だぞ」


「警察に捕まるような事をするつもりなら、私がやりますよ。もう、先などないんですから…」


なっちゃんは、そう言って俺をしっかりした目で見据える。


「なっちゃんは、先がないんだ。残りの時間は、十龍と過ごせ。汚れ仕事は、俺だけで充分だから」


なっちゃんは、俺の言葉に何故?と言いたそうな顔をしながら話す。


「ハリーさん、飴君の為に、自分の人生を捨てるのですか?」


俺は、なっちゃんのその言葉に、手を握った。


「飴に会った日は、俺も結構などん底だったんだよ。自分のやってきた事が、正しいのか間違ってるのかがわからなくなってきててな。あの橋の上で、誰かに会えたら俺はもう少し頑張ってみようって決めたんだよ」


俺は、そう言ってなっちゃんに笑いかけた。


「それで、飴君に会ったんですね?」


「ああ。出会ったのが、飴だった。生きる為に食った食事と煙草臭い家の中で飴は住んでた。金はむしりとられ、督促状まみれ、おまけにライフラインさえも止まってた。俺は、そんな飴の人生をハッピーエンドにしたいって思ったんだよ。飴の人生をかえる事が、いつしか俺の目標にかわっていったんだよ」


なっちゃんは、その言葉にか細い指先で俺の手を優しく握りしめてくれる。


「私も、飴君に会った時にそう思いましたよ。だから、心底幸せを感じられる交わりを教えてあげたいと思ったんです」


そう言って、なっちゃんは、笑ってくれる。


「美麗と出会って、飴がかわっていったのに気づいた。食べ物を美味しそうに食いだしたり、いっちょ前に、上手い酒を教えてきたりしてな。飴にとって、美麗がなくてはならない存在だって気づいていたよ」


「私も気づいてましたよ。だから、飴君には、二度と近づかないと決めていました」


なっちゃんは、遠くを見つめながら笑ってる。


なっちゃんは、まるで飴の母親みたいだな。


コンコンー


病室の扉をノックする音がして俺はなっちゃんから手を離した。


「どうぞ」


「失礼します」


「こっちに」


なっちゃんの言葉に、男がやってきた。


「こちら、針山さん、こっちが、観月です」


なっちゃんに言われて、観月君は俺に頭を下げた。


「よろしくな」


「はい」


「神楽と宗方の居場所が、わかったんだよね?」


なっちゃんの言葉に、観月君は紙を差し出した。


「二人が、よくいるバーです。看板はありません。多分、ここを中心にラムネを売っていると思います。それと、この近くのマンションがSの事務所でした。Sは、宗方真むなかたしんでした。宗方道理むなかたどおりの弟です。」


そう言って、観月君はなっちゃんに写真を見せた。


「俺に接触させてくれないか?」


写真を覗き込んで言った俺の言葉に、観月君は少し驚いた顔をした。


「宗方真には、会えるのかな?」


なっちゃんの言葉に、観月君は頷いてから…。


「向こうから、会いたいと言ってきました。明日、深夜二時に事務所にきてほしいと」


そう伝えてくる。


「それは、俺が行く」


「ハリーさん、一人じゃ何をされるかわかりません。観月も行ってくれるか?」


「わかりました」


そう言って、観月君はなっちゃんに頭を下げた。


「もう、仕事に戻ってくれ」


「はい、失礼致します」


観月君は、そう言って病室を出ていった。


「なっちゃん、終わらせたいんだ」


俺は、観月君がいなくなってなっちゃんにそう言った。


「協力しますよ」


「いや、大丈夫だ。なっちゃんは、残りの人生を佐古十龍さことおりゅうと生きてくれ。二人が、過ごせるように常にお願いしとくから」


なっちゃんは、その言葉に眉を寄せている。


「ハリーさん、無茶だけはしないで下さいよ」


俺は、なっちゃんに笑った。


「約束するよ。だけど、飴の人生だけは守りたい気持ちをなっちゃんにはわかって欲しい」


「それは、わかってます」


「飴は、人殺しって言われて生きてきた。やっと手にした飴の人生も俺は終わらせろといった。勝手だよな。また、美麗に会ってくれとか言ってな。でも、飴にとっても美麗にとっても、お互いが大切な事にかわりはない。だから、二人を引き離す事はしないと決めた。さっきみたいな事をやっちまったら、二度と美麗には近づけない。そうだろ?なっちゃん」



「そうですね」


俯いたなっちゃんのか細い手を俺は掴んでいた。


「ありがとな、なっちゃん」


「ハリーさん、また来てくださいよ」


「当たり前だ」


俺は、なっちゃんに手を振って病室を出た。


なっちゃん、またが会ったらな!








*この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません*

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