手紙と夏生さん

俺は、家を出て歩きながら、佐古さんに連絡をした。

佐古さんは、喫茶店の入り口にいるといった。つくと、喫茶店の前で、佐古さんが待っていた。


「飴よ。手紙だ」


そう言って、佐古さんは俺に手紙を渡してきた。


「夏生さんに、ちゃんと渡してきますよ」


俺は、手紙を受け取りながら笑った。


「ああ、よろしく頼むよ」


そういって、佐古さんはコーヒーを飲むか?とジェスチャーしてからお店を指さしたけれど、俺は首を横に振った。


「そうか、わかったよ!夏生をよろしくな、飴ちゃん」


そう言って、佐古さんは、俺にお辞儀をして歩いて行く。

俺は、佐古さんと反対方向に歩き出した。


コンコンー


俺は、夏生さんの病室の扉を叩いていた。


「どうぞ」


中から、声がして俺は、夏生さんの病室に入った。


「体調は、どうですか?」


「かわらないよ」


そう言って、夏生さんは、柔らかく微笑んだ。日に日に夏生さんは、痩せていくのがわかる。俺は、気にしないようにする。


「これ、佐古さんから預かった手紙です。また、読んで下さいね」


夏生さんは、その言葉に驚いた顔をしながらも受け取ってくれた。


「飴君、私はもっと時間の流れが早くなると思っていたんだ。だけど、実際はゆっくりで24時間以上に感じている。1日がなかなか終わらなくて、とても苦痛だ。どうやら、死ぬのを待つということは、小さな頃にクリスマスや正月を待っていたあの感覚と似ているようだ」

 

そう言って、夏生さんは俺をベッドに座らせる。楽しいワクワクが待ってるわけじゃない。なのに、待たなきゃいけないなんて。俺は、夏生さんの言葉に泣きそうになるのを堪える。夏生さんは、そんな俺の顔を見つめながら…。


「十龍の手紙を持ってきただけじゃないのだろう?飴君」


そう言った目に嘘はつけないから、俺は、ポケットから宗方にもらったプレゼントを夏生さんに差しだした。


それを渡しただけで、夏生さんは、全てを理解して俺に話す。


「違法薬物を売り捌けと頼まれたわけだね?宗方道理むなかたどおりが、飴君に接触したのか?」


「はい」


俺の言葉に、夏生さんは眉を寄せながら話す。


「いくら分、売れと?」 


「5億…です」


俺の言葉に夏生さんは、柔らかく笑う。


「5億か…。私が、買ってあげようか?」


俺は、その言葉に首を左右に振った。


「夏生さんに、迷惑はかけられませんよ」


夏生さんは、その言葉に俺を自分の元に引き寄せる。


「どれぐらいで死ぬのだろうか?私は、お金を持っていく事など出来ないよ。それに、飴君は、まだ、他にも気になってる事があるんだよね?」


やっぱり、俺は夏生さんに嘘はつけない。


「宗方の店で働いて、三億稼げと…」


「三億か…?それだけ稼ぐのに、どれだけの時間と飴君の心が傷ついていくかわかるよ。だから、私にそれら全てを買わしてくれないか?8億、用意するよ」


そう言って、夏生さんは俺から離れて俺の頬を優しく撫でてくれる。こんな細い体の夏生さんに、迷惑はかけられない。


「夏生さんに、迷惑かけれないです。俺、大丈夫ですから…」


俺は、必死で首を左右に振った。

その瞬間だった。


「飴の人生が、狂わされんのを俺は見たくねーな」


その声に、俺は涙目で顔を上げた。


「ハリーさん?いつからそこに…」


「ずっと、聞いてたよ。8億、俺が必ず用意してやる」


俺は、ハリーさんの言葉にも首を左右に振った。


「ダメだ。それじゃ、俺は彼を救えないんだよ」


その言葉に夏生さんとハリーさんは、驚いた顔を俺に向ける。


「彼って?もしかして飴君は、宗方と神楽の両方に会ったのか?」


夏生さんは、俺を見つめていた。俺は、何も話さなくて、そんな俺と夏生さんにハリーさんが、近づいてきて椅子に座る。


「その彼が、何かさせられるのか?」


俺を助けた日のような目をしてるハリーさんに嘘はつけなかった。


「薬物の練習台にさせられる。俺は、宗方と神楽を必ず逮捕させる。そして、神楽から、彼を解放させてやりたいんだ」


俺の言葉に、ハリーさんは頭を抱え始める。


「少しだけ時間をくれないか?俺が、何とかしてやる。だから、待っててくれないか?」


「待てないです。美麗が、ドラマにはいるまでに返事を出さないと…」


ハリーさんは、頭を叩いている。


「ドラマって、この映画の後の事か?」


「たぶん…。美吉とのドラマだと思う」


「そうか、1ヶ月後か…。わかった。俺が何とかするから待ってろ。二週間以内に何とかする。だから、飴は動くな!なっちゃん、協力頼めるか?」


「任せて下さい」


ハリーさんは、夏生さんの肩を擦った。俺は、二人を見つめながら泣いていた。


「俺は、夏生さんとハリーさんに、迷惑かけてばかりだ」


「飴、一人で何でも抱えるんじゃねーよ。俺が、何とかしてやるから。飴の親父は、俺だけだ。わかってるな?」


そう言って、ハリーさんは、目に涙を溜めて笑った。


「はい」


「飴君、これは借りておくよ。調べたい事があるから」


「どうぞ。よろしくお願いします」


俺は、夏生さんとハリーさんに深々と頭を下げる。 


「心配するな、飴。誰にも飴の人生を壊させやしない。俺は、あの日飴を助けた日から決めていたんだ。飴の人生を幸せなものにしてやるってな。売人に何かなっちまったら、飴の人生終わっちまうじゃねーかよ」


ハリーさんは、我慢していた涙を流した。


「ごめんなさい。ハリーさん、俺はいつも迷惑かけてばかりだ」


「息子なら、親に迷惑かけとけ。俺が、飴の人生をハッピーエンドにしてやるからよ」


ハリーさんは、そう言って俺の肩を叩いた。


「ハリーさん、俺…」


「わかってる。美麗が、どうしようもなく好きな事も。飴を支えてくれてる彼がいる事も。心配するな。物事は、うまくいくようにできてる」


ハリーさんは、そう言って笑ってくれる。


「私も、残りの命をかけて飴君に素敵な夢を見させてあげるよ。これから先は、幸せな日々だから」


夏生さんは、そう言って俺の背中を擦ってくれた。


「なっちゃんと打ち合わせするから、飴はもう帰れ。心配しなくていいから」


「わかりました」


俺は、ハリーさんに追い出されて、夏生さんの病室を後にした。 







*この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません*



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