待ち合わせ

宗方道理(むなかたどおり)と待ち合わせ場所に、向かうと既に神楽法(かぐらほう)と京君は、待っていた。


「五分、遅刻だ」


神楽は、ガリガリと飴を食べている。


「ごめんよ。法、怒らないでよ」


宗方は、どちらかといえば神楽の腰巾着のようだった。


「仕方ないから、許してやるよ」


神楽に言われて、宗方は嬉しそうに笑った。今まで、俺に見せていた笑顔とはまったく別の笑顔だ。


「京君、大丈夫だった?」


「はい」


俺は、京君の震える手を握りしめた。


「あー、薬与えたりしてねーから」


そう言って、神楽は俺を睨み付ける。俺は、頷いた。


「京、じゃあな」


「はい」


神楽は、そう言うと宗方の肩を叩いた。


「いいお返事待ってるよ、雨宮さん」 


そう言って、宗方は冷ややかな笑みで笑って大袈裟にお辞儀してから、神楽の方をくるりと向いて歩いていく。

俺と京君は、二人がいなくなるのを見つめていた。いなくなってから、俺は京君に向き合った。


「うちで、コーヒーでも飲んでから帰った方がいい」


「はい」


俺は、京君を家に連れて帰る。


コーヒーを淹れる為に、お湯を沸かす俺に京君は後ろから抱きついてきた。


「ごめんね、守れなくて…」


その姿を見ずに言う俺の言葉に京君が、首を振っているのがわかった。


「少しだけ、このままでいさせて下さい」


「わかった」


グラグラとお湯が沸いていくのを確認すると、京君は、俺から離れた。


「ありがとうございます」


そう言って、京君は、ソファーに座りにいく。


俺は、コーヒーを二つ淹れて京君に持っていく。


「神楽と何を話したのかな?言いたくないなら、言わなくて構わない」


俺は、京君にコーヒーを差し出しながら尋ねていた。 


「飴さんから、先に話して下さい」


「俺は、美麗を守るための条件を3つ出されただけだよ」


「それなら、僕も同じです。飴さんを守るための条件をだされただけですよ」


「まさか、薬物を売れと言われたのか?」


俺の言葉に京君は、凄く驚いた顔をしてる。


「僕は、薬物を試させろと言われました」


京君の言葉に俺は、驚いた顔をして見つめていた。また、京君が傷つけられるのを感じる。


「それって、神楽がまた京君を玩具にするって事じゃないのか?」


俺の言葉に京君は、笑っている。


「飴さんと美麗さんを守れるなら、そんな事はたいした事ではないですよ」


自分が苦しい思いをするのに、そんな事と言って笑う京君の優しさが胸に突き刺さる。


「ダメだ。薬物は、絶対に使わせない。京君にとっての交わりをただの快楽の道具だけにさせたくない」


俺はそう言って、京君を引き寄せて抱き締めていた。京君を守ってあげたい。


「いつ、神楽は答えを聞かせろと?」


「美麗さんのドラマの撮影が、始まるまでにと言われました」


その言葉に俺と同じ期限なのがわかった。


「わかった。俺がそれまでに何とか答えを見つけるから、それまで待っていてくれないだろうか?」


俺は、京君の耳元でそう言った。


「わかりました。僕は、飴さんを信じて待ちますよ」


俺は、京君をさらに強く抱き締めた。


「また、今日きますから…」


「うん」


俺は京君から、離れる。


「連絡して下さいね。飴さんが、辛いのは嫌ですよ」


京君は、本当に優しい。そんな優しい人間の気持ちを利用しようとする神楽が俺は許せなかった。


「ありがとう。いつも…。金森と会うと京君を頼ってしまって、すまない」


京君は、俺の手を握りしめてくれる。


「謝るのは、なしですよ。お願いしたのは、僕の方です。飴さんは、何も悪くないです」


「京君、俺は京君には幸せになって欲しい。だから、京君に誰かが見つかって幸せになるその日まで見届けさせて欲しい。ダメだろうか?」


俺は、京君にそう言っていた。


「嬉しいですよ。僕も飴さんが美麗さんと幸せになれる日まで見届けたいです」


やっぱり京君は、優しい。その優しさを踏みつけられて欲しくない。


「京君、ありがとう」


俺がそう言って、笑うと京君は、コーヒーを飲み干して立ち上がった。


「神楽から逃げる方法は、殺すしかないんだと思っていました。でも、僕は飴さんを信じてみます。無理な時は、僕が法先輩をやりますから…。だから、飴さんは気にしないで下さい」


京君は、そう言って力強い眼差しで俺を見つめていた。


「わかった。京君の手は汚させない。だから、少しだけ待っていてくれ。それに、やるなら、俺がやるから」


「飴さん」


俺は立ち上がって、京君を抱き締めた。


「下まで送るよ」


「はい」


そう言って、家の下まで、京君を送った。


「じゃあ、また」


「ああ、連絡する」


俺は、京君が小さくなるまで見つめていた。


家に帰り、宗方からもらった薬を見つめていた。


これを捌くフリをして、宗方と神楽を逮捕させるいい方法はないだろうか…?


そうだ!夏生さんと、策を練ろうか。


今のままだと、京君も俺もあいつ等の言いなりになる。


殺すのではなく、犯した罪を反省させる。その為に必ず逮捕させる。


罪を償わせてやる。


その為には、俺、一人じゃ何も出来ない。


俺は、服を着替えて、家を出る。


ポケットに宗方からのプレゼントを突っ込んだ。


夏生さんと一緒に、考えよう。


夏生さんは、俺よりも賢い。だから、必ず答えを見つけてくれる。






*この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません*


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