覚悟して

金森が、風呂に入ってる。


俺は、タオルで全身を拭いて。


いったん服を着替えた。


上がったら、風呂に入るか。


俺は、ソファーに座った。


13年前ー


俺は、事務所を辞めて夏生なつきさんを尋ねた。


「やってみたくなった?」


「はい」


「じゃあ、私が紹介するから」


「はい」


「個人でやる事になるけど、怖くない?」


「大丈夫です」


「飴君は、やっぱりたいした子だ」


「いえ」


夏生さんと出会ったのは、半年前だった。


よく行く飲み屋のマスターが、紹介してくれた。


夏生さんは、お金持ち相手のデリヘルをやっていた。


俺は、夏生さんの所では働かずに個人でやらないかと勧められた。


夏生さんは、紹介料をもらわないかわりに俺の体を捧げてくれと言ってきた。


一回、5万でやってみなさいと言われた。


夏生さんは、紳士的な男の人だった。


俺は、一度でも相手の事を考えたキスをした事があるだろうか?


相手が、幸せを感じられるような交わりをした事があるだろうか?


この仕事をして、その気持ちと向き合う事になった。


「飴君、お疲れ」


「お疲れ様です」


俺は、夏生さんの家に来ていた。


「私が、今までしてきた事を全て飴君に教えてあげる」


「どういう意味ですか?」


「極上の交わり。それを飴君に教えてあげたい」


そう言って、夏生さんは俺の髪を撫でた。


極上?


「誰かを幸せにしたいと思った事はない?誰かに必要とされたいと思った事はない?」


「必要とされたいとは、思った事はあります」


「それと、幸せにしたいは同じ気持ちになれるはずだよ」


そう言って、夏生さんは俺に優しくキスをする。


俺が、それを返すと


「駄目」


と言われた。


「すみません」


「キスだけで、幸せを感じさせるぐらいじゃないとね。私に任せてくれる?立ってごらん」


そう言われて、夏生さんに立たされた。


俺は、腰を支えられる。


「覚悟して」


夏生さんに耳元で囁かれて、キスをされた。


ほんわり暖かい気持ちがやってきた。


舌を絡まされて、濃厚なキスをされた瞬間。


「夏生さん」


「大丈夫?飴君」


「これ、何?」


「わかった?」


「立てない」


「座ろうか」


俺は、ソファーに座らされた。


「これは、何?」


「キスだよ」


「夏生さん、俺こんな経験初めてです」


「飴君、キスも交わりもただ本能をぶつけるだけのものに過ぎないと思っていたかい?」


「俺は、恋人を作らなかったのでそうですね」


「そうか。だったら、飴君が本当に好きな人が出来るまでの時間を私にくれないか?」


「はい」


「私が、飴君に教えてあげるよ。全身が幸せに包まれる程の、極上のキスと交わりを…」



「はい」


そう言った俺の髪を撫でてくれた。


それから俺は、仕事と夏生さんとの日々を過ごした。


そして、美麗に出会った。


「キスうまいな。美麗は…」


俺は笑って美麗の髪を撫でる。


「飴ちゃんが、うまいんだよ。俺じゃない。キスだけで、こんなに幸せを感じるなんて思わなかったよ。毎回、立てない」


「それは、俺を愛してるって事?」


「それは、そうだけどね」


そう言って、美麗は俺を誉めてくれた。


「飴、すごいね」


「飴ちゃん、こんなの初めて」


「飴さん、幸せ」


夏生さんとの練習の日々のお陰で俺は、たくさんの人にこう言われた。


俺は、その言葉がすごく嬉しかった。


だから俺は、夏生さんに色々と教えてもらったんだ。


現在ー


お風呂から上がった金森が、俺を見ていた。


「お風呂ありがとう」


「ああ、俺もシャワーにはいってくる」


「飴ちゃんに、抱かれて、美麗がかわっていった理由が少しわかったよ」


「そうか」


金森は、俺を抱き締めた。


「飴ちゃん、俺を抱いてくれよ」


「まだ、駄目だ」


俺はそう言って、金森をソファーに座らせた。


「服、洗濯しておく」


俺のパジャマと新しい下着を着た金森は、ソファーに座っていた。


俺は、シャワーを浴びた。あがってから洗濯を予約する。


俺は、どれだけあいつとしなければならないのだろうか?


美麗との関係で、心が育った俺にとって、それは、嫌で苦痛で堪らない行為だ。


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