京君の恐れ

俺と京君は、歩きながら家に帰った。


自宅近くのコンビニに寄って、お酒を買った。


ガチャ…。鍵を開ける。


「京君、どうぞ」


「飴さん、お邪魔します」


「座って」


俺は、京君に座ってもらった。


「その後、どう?体調とか」


「大丈夫ですよ」


俺は、京君にビールをあげる。


「怖いか?先輩が」


俺は、あたりめを食べながら京君に尋ねた。


「また、現れそうな気がして怖いんです。法先輩は、狙った獲物を離す事はなかったし、獲物から断られる事もない人だったから」


「でも、捨ててきたのは向こうだろ?京君じゃない」


「飴さん、法先輩にそんなのは通用しないんですよ。飽きたと言って手放して、数年後にまた法先輩の玩具にされた人を知っています。ただ、僕はマスターに出会い決別をしました。きっと先輩のプライドを傷つけたに違いありません」


「もし、見つかったなら俺のせいだな」


「どうしてですか?」


「俺は、今、昔の知り合いに宗方道理むなかたどおりを調べてもらってる。宗方は、神楽法かぐらほうと繋がってる。ハリーさんに言われたんだ。あっちもこっちを知ってるから、向こうから接触してくるかもしれないって…。だから、もし見つかったなら俺のせいだ。京君、暫く一人になるべきじゃない。俺が、必ず京君を守ってやる」


「飴さん、僕はそんなに子供じゃないですよ。例え、神楽法かぐらほう先輩が近づいてきたとしても…。昔の僕じゃないんです。きちんと、断る事も出来ます」


そう言って、京君はビールを飲む。


「ごめん。俺は、どうしても美麗の事を守りたくて」


「いいんですよ。飴さんは、気にしないで。守りたい人を守ってあげてください」


「俺は、金森を抱く度に京君を利用してるのに、京君は優しいな」


「それは、僕が望んだ事です。明日、また来るんですよね?金森が…」


京君は、柔らかく笑いながらそう言った。


「ああ、また俺に抱かれにやってくる」


「飴さん、僕、仕事終わったら直接きますから。また僕を抱いて下さい」


京君のこの笑顔に、俺はいつも救われていた。


「ありがとう、京君」


俺は、笑ってビールを飲んだ。


「飴さんは、また美麗さんと会えるようになったんですよね?」


「ああ、なった」


「じゃあ、美麗さんを抱いた方がいいのではないですか?」


「それは、出来ない」


「どうしてですか?」


「美麗を抱くと、どうしても可愛さが増してしまう。色気がでないんだよ」


京君は、どういう意味かわからないという顔をしている。


「金森に可愛さが生まれたのはわかるかな?」


「はい、読みました。ファンの皆さんの投稿を…」


「それと同じ事になる」


「どうして、飴さんに抱かれると可愛さが生まれるのでしょうか?」


「それは、きっと。金森も美麗も女の子になるんだと思う」


「それは、僕も同じかも知れないですね」


京君は、頬を赤く染めて笑っていた。


「でも、キスだけなら違う。色気が生まれたんだ。俺に抱かれたいと願う気持ちが色気を生んだんだとわかった。欲望は、我慢すればする程に美しいエロスを醸し出すのかも知れないな」


「それって、美麗さんは飴さんに抱かれるのを我慢して、飴さんだと思ってカメラを見つめているって事ですよね?」


「そういう事だな」


京君は、感心するように頷きながらあたりめを食べてる。


そして食べながら、考えている。


「それって、飴さんしか知らない美麗さんを他の人が見てるって事になりませんか?飴さんは、嫌じゃないんですか?」


「恥ずかしいのはある。でも、嫌な気持ちはないよ」


「どうしてですか?」


「自分も俳優をやっていたからわかる。知らない顔を見たくなるんだよ。全部を見せるわけじゃない。でも、演じる時はいつだって見せるだろ?全部。だから、嫌なんて思わないよ」


「飴さんしか知らない美麗さんもいますよね」


「ああ、いるよ。ちゃんと…。俺しか知らない美麗を知ってる。それだけで、充分だ」


「芸能人って、大変な仕事ですね」


「夜の仕事も同じだろ?ファンあっての自分だ。時々、勘違いしてるやつもいるけどな。誰のお陰で、飯食えてるか考えなきゃな。その為には、美麗がゲイだってバレちゃダメなんだよ」


俺の言葉に京君は、頷いていた。


俺達は、二人で話しながらお酒を飲んだ。


そして、暫くすると、京君は酔って眠ってしまった。


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