待っていてくれ

俺は、夏生さんを抱き締めた。


痩せ細った体だった。


「もう、あの頃のようには出来ない。ありがとう、嬉しかったよ」


夏生さんは、俺から離れた。


「夏生さん、俺とまたキスしませんか?」


「何、言ってるんだ?」


「余命、告げられてるんですよね?」


俺は、夏生さんを覗き込んだ。


「飴君に嘘はつけないね。半年生きれるかどうかだと言われた。だから、最後に飴君の役に立つよ」


夏生さんは、俺の頬に手をあてる。


「夏生さん、俺、毎日会いに来ますよ。夏生さんのお陰で、俺は、誰かの傷を拭う事が出来た。だから、次は夏生さんの痛みを拭ってあげれる人になりたい」


俺は、夏生さんの手を握りしめた。


「怖いなんて気持ちはね。ずいぶん前からないんだよ。ただね、痛みだけが生きている証だから…。でも、今、飴君にキスをされたら不思議と痛みが減った。昔から、私は飴君が大好きだった。言わないつもりだったけれど…。どうせ死ぬなら話してもいいかな?」


そう言って、夏生さんは笑ってる。


「マスターに飴君を紹介してもらうように頼んだ。私は、千歳の大ファンだったんだよ。23歳の時、雨の音が鳴れば。に出ていた飴君の演技に一目惚れした。あのアプリのせいで、メインをはれなかったのだろう?それでも、腐らずに飴君は役者を目指していただろう?」


「アメオトですか…。あの監督さんは、唯一、俺を出演させてくれました。条件は、キスシーンと濡れ場ありでしたけどね」


「そうだったね。脇役の脇役だった君のキスシーンと濡れ場は、とても美しかったよ。その千歳にあの店に出会った時は、とても嬉しかったよ。声をかけずに見ているつもりだった。でも、癌が見つかってね。私は、マスターに頼んだんだ。最後に一度だけでもキスをしたくて」


そう言って、夏生さんはスマホを開いた。


俺に、待ち受け画面を見せてくる。


「アメオトの俺ですか?」


「撮るのに苦労したよ」


パンフレットの俺が、待ち受けになっていた。


「嬉しいです。ファンが居てくれて」


俺は、笑った。


「だから、飴君には、幸せになって欲しかったんだ」


そう言って、夏生さんは俺の手を握ってくれた。


「夏生さん、やっぱり俺、最後まで夏生さんを見守りたいです。駄目ですか?」


「駄目なわけないよ。飴君と別れてからも、私は飴君が大好きだったのだから…」


夏生さんは、涙を流した。


「俺、毎日来ますから。だから、こうやって夏生さんにまたれたいです。」


「わかった。私も、最後まで君の役に立つよ」


そう言って、夏生さんは柔らかく笑ってくれる。


「ありがとうございます。ところで、夏生さんは、西城って人をご存じですか?」


「知っているよ」


「金森が、西城に頼んで俺を見つけてもらったと話していました。そっちから、宗方に繋がるとかはないでしょうか?」


「西城と宗方…。嫌、繋がらない。西城は、そんな危ない橋を渡るような人間ではない。元探偵だったから、人探しはするけれど…。私と同じで、仕事に誇りを持っているよ。」


そう言って、夏生さんは何かを考えている。


「二年前から、同じ仕事を始めたSが怪しいかもしれないな。ここ、一年で西城も私もSにお客をかなりもっていかれた。それと、ラムネが関係しているのかもしれないな」


「ラムネだけなのですか、流行ってるのは?」


「いや、ラムネとチョコ。後、もう一つが、たった一度で虜にさせてしまうと言われてる苺だ」


「イチゴ?」


「真っ赤な色したものだよ。一粒飲めば、もう戻れないって噂を聞く。もし、美麗君に接触できるチャンスがあるならば二度と宗方に接触させてはいけないよ」


「どうしてですか?」


「確か、一度目はラムネやチョコを使って、二度目は苺を使うと聞いた事がある」


「二度目は、自ら相手に連絡するって事ですか?」


「そうだ!思い出した。馬場って俳優がいただろ?彼が、全く同じ手口を使われた」


そう言って、夏生さんは枕元の手帳を取り出した。


「後は、私が調べておくから。飴君は、美麗君をきちんと守りなさい。一度、目をつけた相手だ。宗方は、相手を破滅させるまで動く」


「わかりました。」


「じゃあ、また明日」


そう言って、夏生さんが笑った。


俺は、夏生さんの病室を後にした。




*この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません*

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