やってきたのは…。

俺は、夏生さんと別れて、ルージュで仕事をした。


相変わらず忙しい一日を終えて、一人で閉店後の片付けをしていた時だった。


カランカランー


「もう、終わりました」


顔をあげると、そこには、寺ちゃんがいた。


「飴ちゃん、久しぶり」


「久しぶり、寺ちゃんがいるって事は…」


「ああ、車で待ってる」


「そっか」


俺は、構わずに掃除を続けた。


「もう少ししてからって思ってたんだけどさ、映画撮影が遅れてて、やっと明後日からだから連れてきた。話してやってよ」


「俺に会いたくないんじゃないのか?」


俺は、そう言いながら、テーブルをふく。


「金森を抱きまくってるからか?」


寺ちゃんに言われて、手を止めた。


「知ってるなら、仕方ないよね」


「なんで?あいつとそうなってる?」


寺ちゃんは、そう言って俺を見つめる。


「誰にも言わないって約束できるか」


「ああ」


「美麗は、自分の意思じゃなくてラムネを飲まされた。ラムネの事、マネージャーしてるならわかるだろ?」


「わかってる」


寺ちゃんは、そう言って強く頷いてる。


「俺は、昔の知り合いに頼んで、美麗に飲ました奴を探してもらってる」


「マジか、マネージャー失格だな」


寺ちゃんは、そう言って頭を抱える仕草をしていた。


「寺ちゃんがつく前じゃないか?俺が、美麗に絶望を与えた日じゃないかと思ってるから…」


「それでも、失格だよ」


「そう思うなら、美麗をこの先守ってやってくれ。美麗に目をつけた男は、破滅させるまで美麗に近づくって話だ」


「わかった。自分の人生をかけて守るよ」


「俺は、俺で守るから。よろしく寺ちゃん」


俺は、そう言って、寺ちゃんの肩を叩いた。


「呼んでくるから、二人で話してやって」


そう言って、寺ちゃんは出ていった。


しばらくして、かわりに美麗がやってきた。


「飴ちゃん、元気?」


パーカーを目深に被る美麗の癖は、相変わらず変わらない。


「なんか飲む?いれるよ」


俺は、カウンターに美麗を座らせた。


駄目だな。美麗を見るとイライラする。


「やっぱり、家で話さないか?」


「えっ?」


俺の言葉に美麗は驚いた顔をしていた。


「先に、待ってて」


俺は、そう言って美麗に鍵を投げた。


「わかった」


ここでと考えた自分が恐ろしい。


嫌、家にしておかなければ俺は、自分が怖い。


片付けをして、俺はルージュを出た。


タクシーを拾って、家に帰る。


コンビニで下ろしてもらって、お酒やコーヒーを買った。


コンビニの近くで、寺ちゃんの車が停まっていた。


コンコンー


ノックをすると寺ちゃんは、窓を開けてくれた。


「ルージュでよかったのに…」


寺ちゃんの言葉に俺は小さなため息を吐いてから…。


「無理だ。怒りがコントロールできそうになかったから。これ、コーヒー」


そう言って、寺ちゃんにコーヒーを差し出した。


「ありがとう」


そう言って、寺ちゃんはコーヒーを


「すぐ、帰すから。そんなのは、しないから…」


「俺は、別に気にしないけどね」


寺ちゃんは、そう言いながら頭を掻いて笑った。


「寺ちゃんがよくても、ハリーさんに、バレるから」


俺は、そう言って笑った。


「傘も返したかったから、ちょっとだけ待たせるけど…」


「大丈夫だ」


俺は寺ちゃんに、手を振って、美麗の元に向かう。


許せるかと何度も自分に問いかけてきた。


出る答えは、すべて許せないだった。


人の事を言えるのか、俺は金森を抱き、京君を抱き、夏生さんにキスをした。


美麗より、俺のやっている事の方が最低ではないか


それなのに、俺の心のサイコロは許せないばかりをだすのだ。


もう少し、時間があれば違ったか?


いや、同じか


どうする


どうする


不本意だよ。


雨宮千歳


お前とは、違う。


不本意だよ。


一歩踏み出す度に、近づく度に苛立ちが積もる。



俺は、冷静になる為に階段を使う。


全然、冷静にならない。


美麗がいる部屋に近づく度に、イライラをぶつけてやりたくなる。


まだ、失望を抱えてやがった。


あの後、動画を少し見たのが不味かったんだな。


夏生さんと電話を切って、見ちまったんだよな。


「飴ちゃん」ってすごく言ってた。


気持ち良さそうにしてやがった。


俺とじゃなくて、ラムネ使ったら誰とでもいけんのか


京君にあんな事を言っておきながら、美麗のあのとろけた顔を見たらラムネ使う方がいいように思えた。


美麗、お前はあの後何を感じた?


気持ち悪いと思ったか?


ちゃんと話して欲しい。


ガチャ…。


7階まで、あがるのキツイな。


歳だ、歳。




*この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません*

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