久しぶりの再会

俺と恋は、朝御飯を食べると家を出た。


喫茶、風花かざはなに二人でやってきた。


8時openのお店だから、この人はいつも、6時にはやってきていた。


カランカラン


「まだ、少し……飴か、座れ」


俺に気づいて、その人は、そう言ってくれた。


「お久しぶりです」


「お前は、また女も男も食ってんのか」


そう言って、その人は、手を前後に動かしながら笑った。


「違うよ、この人はつねさん側」


俺の言葉に常さんは、すぐに理解した。


「ああ、姉ちゃんは女が好きなのか?」


「あっ、はい」


「南沢恋さんって言うんだ」


「よろしくお願いします」


「この人は、常田市之助つねたいちのすけさん。67歳」



「年齢は、いらないだろうがよ。ま、座りな」


常さんに言われて、俺と恋は、カウンターに座る。


「お前、美麗と別れたんだってな」


「はい」


常さんは、俺達にコーヒーを淹れてくれる。



「はいよ」


「どうも」


「ありがとうございます」


俺と恋は、コーヒーを飲み始めた。


「ハリぼうも、酷いことするよな。あっちのが話しやすいな」


そう言われて、俺達三人は、四人掛けのテーブル席に座った。


「美麗は、何か言ってましたか?」


「ああ、昨日か…。ハリ坊が連れてきて泣いてたな。飴ちゃんと別れたら生きていけないって、飴ちゃんは、俺の人生の全てだって言ってた」


「そうですか…」


俺は、眉間に皺を寄せてコーヒーを飲む。


「煙草吸うぞ」


「どうぞ」


常さんは、窓を少し開けて煙草を吸ってくれた。いつも俺を気遣ってくれる常さんが俺は好きだった。


「嫌いだろ?煙草。慣れたか?美麗が吸ってるから」


「いや、慣れない」


「だろうな。毎日罵られた親戚が、煙草モクモクだったもんな。美麗は、わかってて顔に吹きかけたりするんだろ?飴ちゃんが、自分をどんな事しても嫌いにならないってあいつ傲慢だったな。でも、それがファンを惹き付ける魅力にかわってたな」


「そうでしたね。俺が嫌がる事は大好きでしたよ」


俺は、そう言って常さんに笑った。


「美麗も親と絶縁状態だから、飴ちゃんの愛情が必要だったんだろ?だけど、ハリ坊は第二の佐古作りたいからな」


「佐古さんじゃなくて、常さんを作りたいんだ!」


その言葉に恋は、「俳優さんですか?」と尋ねてきた。


「あー、恋は、知らないよね。常さんは、20年前まで俺と同じ事務所にいたんだ」


恋は、驚いて常さんを見つめる。常さんは、その顔を見てくしゃっと笑って話し出す。


「俺、彼氏がいてよ。18歳から順調に昇ってたんだよ。この役をしたら安泰になれるって役を掴んだ25歳の時に、週刊誌に彼氏との事撮られてな。一気に下降した。全部干されてな。今よりそういうのに厳しかったから…ファンもいっきに離れてな。くる役は、全部ゲイの役で。嫌になって、20年前に辞めた」


「そうだったんですね」


「昔の話だよ」


「でも、それでハリーさんは、第二の常さんに佐古さんをしたんだろ?次は、美麗だよな」 


「そうだな。ハリ坊と俺で立ち上げた事務所だったからな。佐古のお陰で安泰だな。そろそろ次の一手に美麗だな」


そう言って、常さんはコーヒーを飲んだ。


「飴ちゃんは、どうやって美麗と別れるつもりだ」


常さんにそう言われて俺は、美麗に言われた言葉を伝える。


「見せろって、他の奴としてるとこ」


「ハハハ、それってノンケが別れる時に言ってくるやつだよな。ゲイが言うかね」


「そんな事ないでしょ?常さん、今までどんな人と付き合ってきたの?」


俺の言葉に、恋と常さんは笑っていた。


「姉ちゃんもわかるか、俺の話」


「はい、私もこないだ別れるのにやりましたから」


「お、ノンケじゃないのにやったのか?」


「だから、関係ないからそういうの」


「飴ちゃん、俺が付き合ってきた奴はみんなそうだったんだ」


そう言って常さんは、笑って言った。


「私も、飴ちゃんと同じだから」


恋の言葉に、常さんは何かを察した。


「笹森梓か?」


「すごいですね」


「ああ、うみちゃんが言ってたのは君か!」


「社長が来るんですか?」


「そうそう、梓の女きらないとって話してたけど、君だったんだな」


「はい」


「見せつけて破局か、だから梓はあんな色気が急にでたんだな。危うさと色気、どんどん人気がでてる」


「ですよね」


そう言われて恋は、嬉しそうにコーヒーを飲んでいる。


「美麗にもやんのか?飴ちゃん」


「そのつもり」


「あいつは、ぶっ壊れるぞ。梓みたいに強くない。それでもやるのか飴ちゃん」


「やるよ。どんなに汚い事でも美麗の為なら…」


俺の言葉に常さんは、コクっと頷いて煙草に火をつけた。


「飴ちゃん、やるなら、一つだけ約束してくれ」


常さんは、そう言って眉間に皺を寄せる。


「はい」


「美麗が、本気で壊れるかも知れない時は、会いに行ってやってくれないか?」


俺は、常さんの言葉の意味を察した。


「わかったよ、常さん」


「じゃあ、もう開店するから」


そう言って、常さんは煙草の火を消した。


「お金、これ」


「いいよ、いいよ」


「ありがとうございます」


「おう、じゃあな」


俺と恋は、コーヒーを飲み干してから店をでた。



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