また、やってきた
俺は、恋と並んで歩き出した。
「飴ちゃんは、どんな人生だったの?」
「ああ、俺か、中学は卒業した。それで…」
「あっ」
そこまで言ったら恋が、突然驚いた声をあげた。
俺は、恋が見つめる視線の先を見た。
「飴ちゃん、誰にでも話すなよ」
近づいてきたそいつに俺は、胸ぐらを掴まれる。
「もう、終わったのか?恋、行こうか」
俺は、その手を払いのけて恋の手を引いていく。
「あんたさ、マジで何?」
そいつは、恋の手を掴んだ。
「離してくれないか?」
俺は、そいつの手を掴んだ。
「あの、あなたも飴ちゃんの何なのですか?」
恋は、そいつを睨み付けて言った。
「俺は、飴ちゃんの彼氏だよ」
「えっと…」
恋は、わざとらしく困った表情を浮かべる。
「やめろ」
俺は、そいつを睨み付けた。
「飴ちゃん、ごめんなさい」
「はあ?ふざけんな」
俺は、そいつの手を恋から引き離して、恋の手を掴んで歩き出す。
「飴ちゃん、ごめんなさい」
何度も謝ってるそいつの姿を無視して俺は歩き出した。
そいつは、追いかけて来なくて、小さく姿が見えなくなった所で、恋の手を離した。
「飴ちゃん、よかったの?また、夜中くるよ」
「そうだな。夜中にまたくるな」
「飴ちゃん、泣いてるよ」
恋は、そう言って俺にポケットティッシュを差し出してくれる。
「ありがとう」俺は、ティッシュで涙を押さえながら恋に話した。
「恋、俺、辛くて堪らないんだ。あいつを傷つければつける程、自分の心がすり減るのを感じる」
「わかるよ、飴ちゃん。でもね、それはね。なくならないよ。ずっと辛いよ。だから、死にたくなる。本当に…。でも、紗綾も同じなのがわかってるから…。だから、私、頑張って生きてるよ」
そう言って、恋は泣きながら笑ってる。俺は、恋の言葉に納得したように頷いた。
「酷い事してるのわかってるけど、仕方ないんだよな」
「うん」
「今だって、美麗が辛いのわかってるから。俺も頑張るよ」
そう言って笑う俺に、恋はグーサインをしてくれた。
「飴ちゃん、私、一回、家に帰るね。また、夜ね」
「ああ、気をつけて」
俺と恋は、駅でさよならをした。
俺は、家に帰りながら…。さっきの美麗の寂しい顔が、頭から離れなかった。
「最低だな」誰に言うわけもなくポソッと呟いた。
俺は、家に帰る。何だかんだ忙しくしていたらあっというまに夜がやってきた。
俺は、今日も、スナックルージュにやってきた。
「飴ちゃん、アイス」
「はい」
「飴ちゃん、お水」
「はい」
やはり、お店は忙しい。
睡眠時間をしっかりとらなければ、39歳の体にはキツイな。
「お疲れ様、飴ちゃん」
お店が終わり、二人が帰った後、ママが俺に話しかけてきた。
「お疲れ様でした」
「ごめんね、昨日恋ちゃんの事」
「いえ、大丈夫ですよ」
「あの子に聞いた?笹森梓の事」
「はい」
「飴ちゃんの事、ハリーさんに聞いたから任せちゃったのよ。ごめんね」
「大丈夫ですよ」
「暫く相手してあげて、話し聞くだけでいいから」
「わかりました」
「じゃあ、健ちゃんきたら帰るから…。恋ちゃんをよろしくね。飴ちゃん」
「はい、お先に失礼します。」
俺は、服を着替えて店を出て、昨日と同じように風鈴に入る。
「いらっしゃいませ。あちらですね、どうぞ」
一日でわかってくれたマスターは、恋ちゃんの隣に俺を座らせた。
「昨日と同じでよろしいですか?」
「ああ、よろしく」
京君は、俺にお辞儀をした。
「飴ちゃん、今日は先約できたから」
そう言って、ピンクのフリフリワンピースの女の子を恋は指差した。
「釣れたのか?」
「うん、さっきね。後、10分したら帰る。飴ちゃんも今日、今から雨降るから早く帰りなよ」
「ビールです」
京君が、ビールを持ってきた瞬間、恋が京君に話し出す。
「ねー、京君。飴ちゃんとエッチしてあげてよ」
「えっ、えっ、悪いよ、そんな…」
顔を真っ赤にしながら、京君は、言った。
「彼氏と別れるのに目の前でしなくちゃならないんだって、無理?」
そんな京君を気にせずに恋は尋ねる。
「無理じゃないです」
俺は、その言葉に驚いて「えっ?いいの?」と間抜けな声で言ってしまった。
「はい、そんな理由でも飴さんと出来るなら嬉しいです」
そう言って、京君はニコニコと笑ってくれる。
「よかったね。飴ちゃん」
そう言って、恋は笑っていた。
「見られるんだよ?本当にいいの?」
「僕は、抵抗ありません。飴さんが、嫌ならしないで大丈夫です」
「京君、変態としか付き合ってないからね」
「恋ちゃん、言わないでよ」
「あっ!飴ちゃん、私もう行くね」
恋は、そう言って立ち上がった。
「ああ、お疲れ様」
「じゃあ、また明日ね」
「気をつけて」
恋は、俺と京君に手を振ると、フリフリワンピースの女の子と店を出て行ってしまった。
それを見届けてから、俺は、京君に話しかける。
「いつでもいけるのかな?」
「はい、大丈夫ですよ。朝から昼ぐらいまでなら…。いつでも」
「申し訳ないけど、お願いします」
俺は、京君に頭を下げる。
「飴さん、やめて下さい。本当に僕は大丈夫ですから…」
そう言って京君は、コースターの裏に番号を書いて渡してくれた。
「いつでも、言って下さい。電話に出れる時は、いけますから」
「わかった」
俺は、ビールを飲み干してお金を払った。
「これで足りるかな?」
「はい」
「じゃあ、またくるよ」
「ありがとうございました」
京君に頭を下げられて俺は、店を出た。
「飴さん、傘。これ、使って下さい」
京君は、俺を追いかけてきてくれて傘を渡してくれる。
「ありがとう」
「ありがとうございました。お気をつけて」
京君は、そう言って、また頭を下げてくれた。俺は、軽く会釈をしてから歩き出した。
予報通りのすごい雨が降っていた。
京君のくれた傘を差しながら、俺は家路を急いだ。
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