今日だけは…

「飴ちゃん?」


洗面所の扉が開く。

俺は、体育座りして膝を抱えて丸くなるようにしながら泣いてた。


見られたら、まずい。


なのに、足に力が入らなくて立ち上がれない。


涙が止まらないから、動けない。


「飴ちゃん、何してんの?」


美麗は、そう言って俺に近づいてくる。


「悪い、向こうに行ってくれ」


この言葉をかろうじで出すだけで精一杯だった。


「嫌だよ」


そう言うと美麗は、俺の顔を強引に自分の方へ向けさせる。


「なんだよ、やめろよ」


美麗の顔を見ると余計に涙が止まらなくなる。


「飴ちゃん泣いてるの?」


美麗は、悲しそうな表情を浮かべて俺を見つめる。


「泣いてない」


ぐしゃぐしゃな顔だってわかってるくせに嘘をつく。


「とまってないよ。涙」


「そうかもな」


「飴ちゃんの気持ち聞かせてよ。ちゃんと…」


「出来ない」


「昨日の人を愛しててもいいから」


その言葉にさらに涙が、あふれてとまらない。


もう、自分じゃとめられないのを感じている。


「飴ちゃん、ちゃんと聞かせてよ」


美麗の捨て猫みたいに見つめる目と悲しい表情に…。


「俺は…俺は…。どうしようもないぐらいにお前を愛してる」


俺は、張り裂けそうな心の叫びを口に出してしまった。


ハリーさん、ごめん。


言っちゃったよ、俺。


美麗の目から涙が流れてくる。


「飴ちゃん、じゃあ何で別れるの?」


「前にも言ったけど、子供ガキが欲しくなっちまった」


そこは、絶対に曲げちゃいけない。だから、ちゃんと俺は、嘘をつくしかない。


「俺は、産めないもんね」


「ああ、無理だ」


美麗の目から、どんどん涙が流れ落ちていく。


「急に欲しくなったの?」


「ああ、たまたま知り合いに会って家族っていいなって思って…。それで…」


「そうなんだね」


美麗は、苦しそうに悲しそうに薄く唇を横にひいた。


「でも、飴ちゃんは俺を愛してるんだよね」


俺の頬の涙をぬぐいながら、言ってくる。


「ああ、どうしようもないぐらいな」


俺は、頬にある美麗の手を握っていた。


「辛いのは、俺だけじゃないんだよね?」


「多分な」


「そうだって、思っていい?」


「勝手にしろ」


「飴ちゃん」


美麗は、頬に当てた手を俺の口元にずらして指で唇をなぞる。


ゆっくりと指を口にいれてくる。


「飴ちゃん、愛してる」


「ハァ」


って吐息が漏れてしまった。


美麗は、俺の声に反応したのか俺を洗面所の床に押し倒した。


「美麗?」


「今日だけだから」


そう言って、俺のカッターのボタンを引きちぎった。


ボタンが、弾けとんでいく。


「ずっとれたかった。飴ちゃんに」


馬乗りになって、俺の胸に耳をぴったりくっつける。


心臓が、早い鼓動をうっているのが自分でもわかる。


「飴ちゃん」


そう言って、キスをされた。


下半身が、膨らんでくるのがわかる。


「俺も同じだよ」


美麗も、キスで膨らんできてるのがわかる。


「んんっ」


舌をいれられると、さらに膨らむのがわかる。


もう、俺は、我慢なんか出来なかった。


俺も舌を絡ませた。


「んんっ」


美麗が、感じてる。


俺と美麗は、寂しかった時間を埋めた。


洗面所の狭い床に、二人でゴロンと寝転がった。


弾けとんだボタンの一つを持ちながら、美麗が話す。


「飴ちゃん」


「なに?」


子供ガキができたら、見せてよ」


「ああ」


いつ、見せれるんだろうな


「後、約束は守ってもらうから」


「あれは、もういいんじゃないのか?」


「無理だよ。俺、それじゃあ納得出来ないよ。ちゃんと、俺を絶望させてよ」


「そっから、這い上がってこれるのか?」


「わからない。でも、やるよ。俺は、俳優だから」


「俺は、助けてやれないぞ」


「わかってる。社長がいるから、大丈夫だよ」


「そうか、ならいいよ」


そう言うと美麗は、俺にくっついてくる。


「飴ちゃんの匂い好き」


「よかったな」


「何かちょうだいよ。飴ちゃんの服」


「好きなの持って帰れよ」


「じゃあ、まずこのボタンかな」


「そんなのいるか?」


美麗は、いたずらっ子みたいにクスクス笑って「いるよ、飴ちゃんの全部いる」と言ってボタンを握りしめた。


「世の中の女子が惚れるイケメン俳優が、俺にだけそう言ってるなんて何か嬉しいな」


酔いが回ってきた俺は、本音が漏れる。


俺は、美麗の髪を優しく撫でる。


「飴ちゃん、優しいね。今日。酔ってるよね」


「そうだな。いつにも増してお前が好きだ。今日は、何時から、外で待ってた?」


俺は、美麗の頬や髪を必要以上に撫でる。


「嬉しい事いうね。12時かな。飴ちゃんこないから、公園で酒飲んでたら雨が降ってきた。このまま、うたれていたくて暫くそのまま濡れてた」


「そうか、寒かっただろう…」


「うん」


「あのさ美麗、一つだけ覚えててくれ」


「なに?」


「俺は、美麗おまえがいないと何を食べても飲んでも美味しくないんだ。それだけは、どんな事があっても忘れないでくれ」


「わかったよ、飴ちゃん」


「こんなとこで、寝転がってたら風邪ひくからベッドに行くか」


「歯磨くよ」


「ああ、俺も」


俺達は、並んで歯を磨く。


もう、二度と見られない光景を目にしっかりと焼きつけながら…。


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