毎日、毎日飽きもせず【恋】

私は、紗綾を失ってから毎日毎日風鈴に来ていた。


心は、空っぽだった。


埋めるものなど、なかった。


あの日、飴ちゃんが帰った後見知らぬ男が私の隣の席に座った。


死にたい、そう言った私にそいつはこう言った。


「幸せを感じれるけどほしい?」


その言葉を口に出してたのだとそこで初めて気づいた。


その男は、変な色のお菓子を私に差し出してきた。


「誰?」


「私の名前は、宗方道理むなかたどうりですよ。ご興味は、ありますか?」


「ないです。男は嫌い」


そう言って、私は変な色のお菓子を宗方に返した。


「残念だなー。せっかく楽しめると思ったのに…」


メガネをあげながら、宗方は笑った。


その笑みは、冷ややかで、怖かった。


気持ち悪い人


私は、宗方にそう思った。


それにしても、なんだろう?あの色のお菓子。


なんか、嫌な予感しかしなかった。


「男に興味ない女には、興味ないからね。さよなら」


そう言って、宗方はターゲットを別の人間に変えた。


ピンクのフリルの女の子に近づいて行く。


悔しいけど、由香ちゃんが選んだのはさっきの気持ち悪い男だった。


「よかったの?」


京君は、私に話かける。


「うん、なんか男がいいんだって。ってか、あの人初めましてだよね?」


「ううん、昨日僕が帰る時に来たから。二回目だよ」


京君の言葉に私は少し驚いた顔をする。


「へー。風鈴気に入ったのかな?」


「どうだろうか?」


そう話して、京君と二人で男を見ていた。


「変な名前だった」


「さっきの人」


「うん」


私は、京君にそう話した。


そしたら、急に京君が、私の手元を見て固まる。


「どうしたの?」


「これ、なに?」


「なに、それ?」


そう言われて見ると変な色のお菓子が、ナッツの皿にはいっていた。


「ヤバイやつ?」


「誰がいれたのかな?」


「あっ、さっきの人」


「変な名前?」


「うん、うん。警察もってく?」


「ヤバイやつなら、信じてもらえないと思うよ」


「じゃあ、捨てちゃおう」


「わかった」


私の言葉に京君は、ナッツのお皿をさげて捨ててくれた。


あの男が、さっき私に見せてる間にいれたのだ。


変なお菓子だった。


気持ち悪い程の赤色で…。


まるで、血みたい。


男に見せられた、お菓子。


皿にのせられていた丸くてほんのり水色のとは違った。


なんか、毒々しい赤だった。


それを食べたら、死にそうな気がした。


「捨てた?」


「うん」


そう言った後、振り返ったけど、さっきの人の姿は、もうなかった。


「恋ちゃん、そういうの使ったら駄目だよ」


「そういうのって、薬の事?」


「うん。昔、一回吸わされたでしょ?変なお客さんに」


「ああ、あの煙草ね」


「こういう場所は、そういうのがあるから普通に駄目だよ」


「あれ一回だよ。吸ったら幸せになれるとかなんとか言ってたね」


京君は、新しいカクテルと交換してくれる。


「幸せになれた?」


「ならなかったよ。死にたかったもん。ずっと。あの時、確かに毎日楽しくなかったけど…。そこまで死にたいとかなかったんだよね。なのに、次の日死にたいってすごい思ってビックリしたんだよね」


「とにかく、駄目だよ。もう、絶対」


「わかってるよ。絶対しないから」


私は、京君に怒られた。夜の仕事をしてる以上、それが付きまとってくるのは事実だ。


風鈴にも、そのタイプの人が時々やってくる。


マスターは、その度に会員制にしたいなと話したぐらいだ。


それでも、絶対とめれるわけではない。


「由香ちゃん、危なくない?」


私は、京君にそう言われてすぐに由香ちゃんに連絡した。けれど、いくら掛け続けても出なかった。


「由香ちゃん、出なかった?」


「うん」


「あっちも、昔流行ってたらしいよ」


「自分の意思で断るしかないよね」


「うん、それしかないよ」


京君の仕事が、終わって店を出た時には、もう夜明けが近かった。


「知らない人からだされたものは、口にしない。知らない人から渡されたものは、口にしない」


「仲良くなった人でも、怪しいと思うなら関わらない」


それが、ここで生きる私達のルールだ。


「京君、私気持ちわかるよ」


「うん」


「性をそうされたの、私も同じだったから…。私の場合は、合法の薬だったけどね」


「うん」


「でもさ、そればかりじゃないと思うよ。快感なんて追求しすぎたら止まらないものだよね。だけど、心から幸せを感じられる事と快感は同じじゃないよ」


「わかってる。」


「そろそろ、幸せ。探したっていいんだよ」


私は、京君に笑いかけた。


「ありがとう」


「うん」


昔の私に似ている京君とは、出会ってすぐに仲良くなった。


京君に傷を見せた時には泣いてくれた。


そして、自分にもあると見せてくれた。


もう、その呪縛から京君も解き放たれていいのに…。








*この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません*

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