マネージャー

ハリーさんに呼ばれて現れたのは、清水豪徳しみずごうとく。ハリーさんがつけたあだ名は、寺ちゃんだ。


寺の名前にあるだろう?ってハリーさんが笑ってあだ名をつけた。


本当は、清水が、もう一人いて、ごうという名もいたのと、ごうとくは言いづらいからと寺ちゃんにしたのが理由だ。


寺ちゃんは、俺の同期だった。


「お久しぶりだね。飴ちゃん」


「元気にしてたんだな」


「ああ」


「あがるぞ」


ハリーさんと寺ちゃんが、家に上がってきた。


二人は、ダイニングテーブルの椅子に、腰かける。


俺は、窓を開けに行って、ハリーさんに灰皿を渡した。


「コーヒーいれるよ。インスタントだけど」


「ありがとよ」


ハリーさんが、手をあげる。


俺は、人数分のコーヒーを作った。


「はい」


「ああ、ありがとな」


「いただきます」


ハリーさんと寺ちゃんが、コーヒーを飲みだす。


「美麗の、運転手とマネージャーとして、寺をつけようと思ってる」


ハリーさんは、コーヒーカップを置くのと同時に言った。


「そうですか。寺ちゃんなら、安心です」


俺は、笑った。


ハリーさんは、煙草に火をつけた。


「だいぶ、忙しくてな。寺は、事務所あっちで売れなくても細々やってたんだけどよ。結婚するから、辞めるって話をしてきてな。この話をしたんだ」


「寺ちゃん、結婚するんだね。おめでとう」


「2ヶ月後だよ。だから、ちゃんと仕事探そうと思ってたんだ。バイトとエキストラ程度の役者だろ?結婚する身としては、彼女に申し訳なくてね」


そう言って、寺ちゃんは照れ笑いを浮かべながら、コーヒーを飲んだ。


「それで、寺を美麗のマネージャーにするわけだよ」


そう言って、ハリーさんは煙草を灰皿に押し当てて消していた。


「美麗をよろしくお願いします」


俺は、寺ちゃんに頭を下げた。


「わかってる。二人の事もきちんとハリーさんから聞いて知っているから。頭をあげてよ、飴ちゃん」


そう言って、寺ちゃんは笑ってくれた。

ハリーさんは、ニコニコ笑った後でまた煙草に火をつけた。


「飴、美麗が飴に貢いだ額いくらか知ってるか?」


「大体は、わかっているつもりです」


「嘘だろ?」


そう言って、ハリーさんは煙草の煙を吐き出しながら笑った。



「一億だぞ」


俺は、その言葉に驚いた顔をハリーさんに向けた。


「ハハハ、驚いたか」


「はい」


「会う日に、5万、10万つってな。やれ何かするだ、買ってあげたいやらで積もりつもって一億だ」


ハリーさんは、そう言って笑いながら頭を掻いた。


「返済できるのですか?」


「今のままだと、来年の夏には返せる予定だよ。その後、あいつをプロデュースする為に使った一億を払ってもらうだけだ。まあ、大方三年で回収するつもりだ」


そう言って、笑いながらハリーさんは煙草の火を消した。


「一億、俺が返すべきですよね」


「それは、違うだろ?美麗が、俺に頭下げて借りまくった金だ。佐古とエリーが稼いだ金だけどな」


佐古さんと歌姫エリーが稼いだお金を俺は、美麗に貢いでもらっていたんだ。


「キャッシュで、一億はだせるんだな?飴」


「はい、あります」


「よく、貯めたな」


ハリーさんは、笑った。


「飴ちゃんが、辞めてからの仕事を知ってるよ。聞いたから。それで、貯めたんだね」


寺ちゃんは、凄いねって顔をして笑ってくれる。


「ああ、いつまでも出来る仕事じゃなかったから億は欲しかった」


「そうか、じゃあ美麗のお陰もあって達成したんだな」


ハリーさんは、目を細目ながら笑っていた。


「いや、その前に達成していましたよ」


その言葉に、ハリーさんはやっぱりなって顔をした後で、俺を見つめて話す。


「飴、こんなに美麗を好きになると思ってなかったんだろう?」


ハリーさんの言葉に涙が流れるのを感じた。


ハリーさんは、また煙草に火をつける。


「俺は、気づいてたよ。美麗が、飴に会いに行ったってかー子に聞いた時からな」


「いつ聞いたんですか?」


「美麗が、飴に会いに行って一週間経った頃に、エリーのジャケット撮影でかー子に会ったんだ。その時に聞いた」


「とめなかったのは、何故ですか?」


「飴にも幸せになって欲しい。親父の顔がでちまったかな。ハハハ」


ハリーさんは、笑いながら、煙草の火を灰皿に押し当てて消した。そのタイミングで、玄関のドアが開いた。


「お迎えに上がりました」


そう言って、玄関を開けて早川さんが顔をだす。


「ああ、行くよ。飴、悪いが今週の日曜日に常さんの店に来てくれないか?」


「構いませんよ」


「13時には、待ってる。少し話をしたい」


「わかりました」


「仕事頑張れよ」


「はい」


「じゃあな、飴ちゃん」


「また」


俺が、深々と頭を下げると二人は出て行った。


コーヒーカップを洗いながら、俺は、ハリーさんに出会ったあの日を思い出していた。

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